News Letter No.45 - May 2006 -
 
 Current Opinion 
緩和ケアチームの腫瘍内科医が思うこと

埼玉医科大学臨床腫瘍科・緩和ケアチーム
奈良林 至


 29日と36日。この数字、何だと思われますか。当院の緩和ケアチーム(以下PCT)に昨年1年間に依頼が出て、残念ながら死亡の転帰をとられた患者20名の、「最後の入院からPCTに依頼が出るまでに要した日数」と「依頼が出てから死亡退院までの日数」のそれぞれ中央値です。今回はこの数字について考えてみることにします。その前に、この20名という数ですが、これは当院で1年間に悪性腫瘍で死亡される患者の約5%に相当します。PCTが活動を始めた初年度の数値で、PCTの存在すらなかなか浸透していないことを割り引いても決して十分な人数とはいえないと思いますが、今日はその議論は省きます。
 29日はさておき、「依頼が出てから死亡退院までの日数」の中央値38日(2〜116日)は、感覚的には短いと思います。患者と信頼関係を築くにはある程度の時間はかかりますし、症状が落ち着かないから依頼が出されるわけで、そのような状態ではさらに多くの時間を要することも少なくありません。また、死亡前4〜2週間という時期は衰弱が進み、投薬の効果を判断することすら容易ではなくなってきますし、せん妄の発生頻度も次第に高くなっていきます。PCTが併診となっても結局十分な症状コントロールに結びつかない場合もでてきます。これは、直接PCTの評価につながってきますので、見過ごすことのできないポイントです。
 では、なぜ依頼が出るのが遅いのでしょうか。“患者の希望がない”、“医師が緩和ケアに関心が薄い”、“PCTの存在を知らない”、“PCTのことは知っているが、「どうせ眠らせておしまい」程度の認識しかなく、依頼しようとしない”など理由は様々あるでしょう。私はこれまで腫瘍内科医として薬物療法を、緩和ケア医として終末期患者の症状コントロールにそれぞれ関わってきましたが、最も大きな理由は“多くのがん治療医に緩和ケアに対する関心や理解がない”ことだと考えています。
 薬物療法の対象となるような進行再発がん患者は、大半が平均寿命より短い一生を終えることになります。多くの心残りややり残したことを抱えたまま、家族や社会とお別れしなければなりません。患者が人生を完結させるにあたり、その不本意な思いが最小限で済むように考えていくこと。個々の患者で異なる抗がん治療のメリット・デメリットを常に考え、患者・家族と相談しながら治療方針を決めていく姿勢を、是非がん治療医は示してほしいと思います。日々の診療の中で、そのような考え方を自ら示していけるように私自身も気をつけたいと思っています。