News Letter No.45 - May 2006 -
 
 Journal Club
終末期がん患者の在宅死に影響する因子の系統的レビュー

国立がんセンター東病院臨床開発センター
精神腫瘍学開発部
秋月伸哉


Factors influencing death at home in terminally ill patients with cancer: systematic review
Barbara Gomes, Irene J Higginson. BMJ. 2006 Mar 4;332(7540):515-21.

【背景】
 終末期を家で過ごしたいというがん患者の希望から、多くの国で在宅医療に医療財源を投入し始めている。しかし英、米、独、仏、スイスの調査で多くのがん患者が病院で亡くなっていることが報告されており(WHO、2004)、英国ではがん患者の在宅死はむしろ減少している(1994,27%→2003,22%)。この理由は明らかになっておらず、包括的な研究も行われていない。本研究では、系統的レビューを行い、がん患者の死亡場所に影響する因子を明らかにし、モデルを構築することを目的とした。
【方法】
 既存の研究も参考とし、がん患者の死亡場所に関する決定要因の概念モデルを作成した。要因は病気に関連する要因、患者個人の要因、環境に関連した要因の各因子の相互作用によって決まるとした。
 2004年にデータベース(Medline、PsycINFO、CINAHL、ASSIA)を既定のキーワードで検索した。Gray literature、参考文献の調査、重要雑誌のハンドサーチを行い、検索手順について3人のレビューアーがチェックした。研究の選択基準を、がん患者の死亡場所に影響する事前の要因を検討したオリジナル研究とし、緩和ケア病棟など特定の対象のみを選択した研究も含めた。個々の研究論文は、基準に基づき研究の質とエビデンスレベルについて評価された。研究の異種性からメタアナリシスは行わず、エビデンスの強さにより死亡場所に影響する因子をグループ化した。
【結果】
 224研究から15研究が選ばれ、13カ国の1500万人以上のデータが集められた。6研究が縦断研究であった。17因子について強いエビデンスを、20因子について中等度のエビデンスを発見した。社会状況、婚姻、歴史の流れの方向に関する矛盾した所見があった。
病気に関連する要因:非固形がんと病院死、長い有病期間や、初診時の全身状態が悪いことと在宅死との関連が一貫して認められた。痛みは2研究で影響なし、2研究で在宅死と関連。他の症状についてはほとんど報告がないが、複数の疾病を持つことは病院死と関連していた。
患者個人の要因
Demographic:社会状況(教育、社会階級、収入)がよいことと在宅死との関連について6研究が関連を支持し、2研究で影響を認めなかった。年齢は16研究で評価されているが結果は一致しない。
個人的な要因:在宅ケアの意向を持っていることのみならず、意向の表出、看護師からの意向の確認、在宅死に関する患者と介護者の意向の一致と在宅死に関連を認めた。
環境に関連した要因
医療資源:1研究を除き、在宅ケアの使用頻度は在宅死と関係していた。住居が郊外にあるか、都市部にあるかの影響は、調査地区により結果が異なっていた。
ソーシャルサポート:配偶者や介護者と同居していること、介護者の数が多いこと、結婚していること、在宅ケアに関する介護者の意向があることが、在宅死に関連していた。
マクロの社会要因:在宅死に関する歴史的な傾向があることが、いくつかの地域で在宅死と関連した。
最終モデル
17の要因のうち、初診時の全身状態が悪いこと、在宅死希望の表出、在宅ケアと頻度、近親者との同居、家族の援助をあてにできることの6因子が最も強く在宅死と関連した。病気に関連する要因、患者個人の要因、環境に関連した要因のうち、環境に関連した要因の影響が最も強かった。
【ディスカッション】
 多くの研究が縦断研究でなく、研究方法が統一されていないなど限界はあるものの、本研究はがん患者の死亡場所に関連する因子の複雑な因子のネットワークを明らかにした。病気に関連する要因は、非固形がんでは最後まで治療オプションがあること、在宅療養の計画・議論に時間を要すること、全身状態がわるいと緩和ケアに紹介されやすいなど、緩和ケアのタイミングに関連していると思われる。患者個人の要因として、患者の意向があることだけではなく、意向が医療者、介護者に明確に知られている必要がある。また、使用できる医療資源の影響が大きいため、その地域で利用できる医療サービスの質により死亡場所が左右される。介護者の影響も大きいため、介護者の相互支援や、患者・家族間の調整も重要であることが明らかになった。
 がん患者が在宅で亡くなれるために、英のケアの計画評価ツールや、90%が在宅で行われる北米のような在宅緩和ケアモデル、米、日、カナダ、欧州などの遠隔在宅医療、医師への教育、カナダの介護休暇など、世界的にいくつかの取り組みが行われている。
 今後、本研究で示されたような要因に関する包括的な介入、予防的介入、介護休暇のような家族支援システムなどに取り組む必要がある。そのために介護力の強化、一般市民の教育、在宅ベースの介護モデルの改善、初期から継続して行うリスク評価、プライマリケア医の緩和ケア教育に力を入れる必要があるだろう。