News Letter No.45 - May 2006 -
 
 Journal Club 
他者への負担:終末期患者にみられる苦悩

聖隷三方原病院ホスピス
名古屋市立大学大学院医学研究科
精神・認知・行動医学
赤澤輝和


A burden to others: A Common source of distress for the terminally ill.
Wilson KG, et al. Cognitive Behavior Therapy 34:115-123, 2005

【背景】
 がん患者、認知症、脳卒中などの慢性疾患の介護者の負担に関する研究は進んでいる一方、ケアを受ける患者の「家族の負担の原因になること」における苦悩についてはあまり知られていない。他者への負担はQOL、エンドオブライフケアの質、尊厳の保持、死ぬことよりもひどい運命(fates worse than death)、悪い死(a bad death)と関連し、さらに希死念慮、安楽死・自殺幇助の主要な関連要因であることが明らかにされてきた。
【目的】
 緩和ケアを受けている進行がん患者の負担の構成概念を明らかにし、その重要性を強調する。
【方法】
 本研究のデータは緩和ケアにおける精神医学の大規模疫学調査の一部である。対象は、緩和ケア病棟に入院中、または、teaching hospitalにおいて外来・入院緩和ケアを受けている進行がん患者69名であった(女性38名、平均年齢64.5歳、調査から死亡までの生存期間中央値46日)。これらの患者を対象に、Structured Interview of Symptoms and Concerns(SISC)、エンドオブライフケアに対する態度、Karnofsky Performance Status Scale(KPSS)、および人口統計学的因子などについて評価した。
【結果】
 他者への負担について、27名(39.1%)の患者が軽度と、26名(37.6%)の患者は高度であると回答した。他者への負担の構成概念として、身体症状(痛み、衰弱、呼吸困難)と低い相関(r=0.24-0.27)、精神症状(抑うつ、興味・喜びの喪失、不安)や実存的問題(コントロールの喪失、尊厳の喪失、希望のなさ)においてはより高い相関(r=0.36-0.39)、そして希死念慮(r=0.35)、自殺念慮(r=0.27)においても相関が認められた。多変量解析の結果、他者への負担に関連した要因は、尊厳の喪失、不安、そして痛みであった(R2adj=0.38; F=14.63;p<0.001)。また、他者への負担を高度に感じている患者の特徴として、軽度に感じている患者と比較して、既婚者が多く、コントロールの喪失、尊厳の喪失、希望のなさ、抑うつ、不安に関する苦悩を有していた。さらに、DSM-・において不安障害、または大うつ病の診断基準を満たしている患者は、高度群38.5%(10名/26名)に対し、軽度群は14%(6名/43名)であった。
【考察】
 緩和ケアを受けている進行がん患者においては、病状の進行に伴う機能喪失と社会的役割の変化において、他者への負担は顕著な問題である。他者への負担の構成概念として、終末期に認められる幾つかの種類の苦痛と密接に関連していることが示され、今後の研究課題として、大規模研究のみならず、質的研究による深い理解の必要性が示唆された。