News Letter No.45 - May 2006 -
 
 Journal Club 
全病期乳がん患者に合併した大うつ病に対するparoxetineおよびdesipramineの、プラセボを対照とした多施設RCT

国立がんセンター中央病院
精神科
清水 研


Musselman DL, Somerset WI, Guo Y, Manatunga AK, Porter M, Penna S, Lewison B, Goodkin R, Lawson K, Lawson D, Evans DL, Nemeroff CB.
A double-blind, multicenter, parallel-group study of paroxetine, desipramine, or placebo in breast cancer patients (stages I, II, III, and IV) with major depression
J Clin Psychiatry. 2006 Feb;67(2):288-96.

【背景と目的】
 乳がん患者において、抑うつは高頻度に合併する精神症状であり、積極的抗がん治療のコンプライアンス低下やQOLの低下などの悪い影響をもたらすのみでなく、予後不良と関連するという報告も存在する。このような重要な問題であるにもかかわらず、プラセボを対象とした二重盲検化比較試験の結果は、ミアンセリンが有効であるというものしか存在しない。また、重症のうつ病に対しては、三環系抗うつ薬(TCA)が、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)よりも効果に勝るという過去の報告もあり、我々は乳がん患者の抑うつを対象とした治療において、paroxetineおよびdesipramineの有効性と安全性を、プラセボを対照として検討した。
【対象と方法】
 2施設における全病期の外来乳がん患者のうち、大うつ病あるいは適応障害(抑うつ)を合併したものを対象とし、paroxetine、desipramineおよびプラセボのうちの1つに無作為に割り付けられた。 1週間のプラセボ投与によるwash outを最初に行った。
 Paroxetineは20mg/dayより投与を開始し、最大40mg/dayまで増量を行った。Desipramineは25mg/dayより投与を開始し、最大200mg/dayまで増量を行った。診断はDSM-III-Rに基づいた半構造化診断面接(SCID)を用い、ハミルトンうつ病評価尺度(HAM-D)、臨床における全般的評価尺度(CGI-S)による評価をあわせて行った。有効性、および有害事象の評価はベースラインから6週までは毎週行い、その後6ヶ月までは毎月行った。主要評価項目としてはHAM-Dのベースラインからの変化とし、副次的にCGI-Sの変化とした。HAM-Dの11点の差を、両側検定で0.05/3のレベル、85%のパワーで3グループの何れかに検出するサンプルサイズとして、1群あたり15人とした。
【結果】
 実際に参加した患者は35人(paroxetine13人、desipramine11人、プラセボ11人)であり、適格基準には適応障害患者も含めていたが、全員が大うつ病であった。ベースラインデータにおいて、プラセボ群の方が他に比べてステージが有意に低かった。実薬群は化学療法を受けている割合が高く、performance statusの障害はparoxetine群で一番少なかった。平均投与量はparoxetineが31mg/day、desipramineが113mg/dayであった。
 有効性に関しては、HAM-Dの変化、CGI-Sの変化ともに有意な差を認めなかった。また、自由回答にて有害事象を評価したところ、desipramine群でプラセボに対して口渇の訴えが多い傾向(p=0.09)があったが、その他に明らかな差を認めなかった。
【結論】
 この小さなサンプルサイズの研究においては、抗うつ薬とプラセボの間に有効性に関する差を認めなかった。乳がんの抑うつに対してどのような治療を行うべきかという疑問は依然として存在し、適切なサンプルサイズのプラセボを対照としたRCTの実施が至上命題である。