| 緩和終末期ケアにおける死に逝くこと、尊厳、新たな展望 |
大津市民病院緩和ケア科
中井珠惠
Dying, Dignity, and New Horizon in Palliative End-of-Life Care.
Chochinov, H M, CA Cancer J Clin 2006;56:84-103
緩和ケア従事者は、終末期の苦痛症状の改善に取り組んできた。しかし、患者の死に逝く経験を社会心理的、実存的、スピリチュアルな側面から理解し評価する知識と能力は発展途上にある。このレビューは、社会心理的、実存的、スピリチュアルな側面に関する研究を概観する。終末期における精神症状に関する資料も補足する。終末期におけるスピリチュアル・実存的苦痛と苦悩(絶望、他者への負担をかけているという感覚、自尊心の喪失、希死念慮、生きる意志の喪失)を検証する。そこから導き出された尊厳の規範(model
of dignity)と、尊厳を維持するための診断上の質問内容、治療的介入の実例について取り上げる。また、スピリチュアル・実存的苦痛を軽減するその他の介入方法についても述べ、効果に関する実証も行う。
スピリチュアリティと実存主義に関する研究を概観すると、この二者を緩和ケアの文脈においては区別する必要は少なく、むしろ、人間が生きる目的、意味、希望への衝動という共通した意味をもつ。患者のスピリチュアル・実存的な問題を理解し、その患者の苦悩への影響を検証することが試みられ、苦悩(絶望、他者への負担をかけているという感覚、自尊心の喪失、希死念慮、生きる意志の喪失)が、患者自身の生きる意味、目的の喪失、無価値感、そして尊厳の喪失と関係することが報告されている。これらの検証に基づき、著者は、患者の尊厳を支え理解する規範として尊厳を維持するケア(dignity-conserving-care)を作成し、3つのカテゴリー(・病気に関する身体的問題・尊厳を維持するための一覧―心理的構造・スピリチュアルな価値観、・社会的尊厳に関する項目―尊厳に影響を与える外的要因)で構成するガイドラインとしてDignity
Modelを規定した。
また、いくつもの緩和ケアに関する研究・調査報告は、医療者と患者が適切な言葉によってスピリチュアル・実存的苦痛について話し合い、それらの患者の苦悩に対して介入することの必要性を述べている。また、具体的なアプローチに関する報告もあり、グループ心理療法としては、コントロール、アイデンティティー、関係性、意味という四つのカテゴリーについて考えスピリチュアルな内的資源を引き出すアプローチが挙げられる。グループ療法は、ユダヤキリスト教を背景としたもの、Millerらが行なったスピリット、感情、関係性に焦点を当てたものがあり、また、Spira、Breitbartが行なった意味中心的(meaning-centered)グループ心理療法(V.
Franklの実存的心理療法をもとに考案)は、人間がどのような災難においても自分の行動や様態をコントロールできるという考え方により、人生の意味と目的の回復を可能にするものである。この意味中心的グループ療法の介入以前、参加者の40%が人生の意味や目的を持っていなかったが、介入後、全ての参加者が人生の無意味感を感じていなかったと報告している。
著者らは、Dignity Modelに基づいた介入方法として、Dignity Therapyを抑うつ、苦悩を持つ100名の終末期患者を対象に行った。患者に人生で最も重要なこと、また意味のあること、人生で最も記憶に残っていることを質問した。参加者の91%が満足し、自尊心、目的意識、意味、生きる意志がいずれも上昇したと報告している。苦痛、抑うつ症状も改善した。また、Dignity
Therapyが家族への援助となったと感じた患者は、人生の意味、目的、生きる意味がさらに上昇し、苦痛が減少した。患者の尊厳にとって、愛する人の幸福に関与することは有用であり、そのような意味でもDignity
Therapyが終末期の苦悩と苦痛を減少させる可能性をもつことを説明する。
死に直面することは、身体的、社会心理的、スピリチュアル・実存的困難によって傷つくことを免れず、患者は病気によって失った自意識を回復することに苦悩する。したがって、医療者は単に患者を治療優先の対象として見るのではなく全人的介入が必要である。尊厳を維持するケアは、全人的、共感的、また医療的に包括した終末期ケアを可能にする。これが、緩和ケアの新たな展望として、死に直面した患者の希望を支え、生きる意味を高め、苦しみを軽減するという新しい共感的な態度の基盤を提供するだろう。
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