News Letter No.44 - Feb 2006 -
 
 Current Opinion 
看取りに見る日米の文化差

静岡がんセンター緩和医療科 心理療法士
栗原幸江


 2002年静岡がんセンター開設に伴い帰国するまで、私はニューヨーク州ブロンクスにあるCalvary Hospitalという終末期がん専門病院にソーシャルワーカーとして勤務していた。200床の病床全部が進行がんをもつ患者対象で、私が退職する2002年のころは年間死亡退院患者数がおよそ2,400名と、今思うととても稀有な環境で数々の貴重な経験をさせていただいたと思う。
 「生死」をめぐる一連の儀式はその国や民族の文化を反映するものだが、帰国後の静岡がんセンターの緩和ケア病棟における「看取り」は私にとって非常に新鮮なものだった。日米の文化差がこういうところに現れるんだなぁと感じた最初のカルチャーショックである。皆さんにとっては「日本らしい看取り」はごく当たり前と感じておられるだろうから、ここではアメリカでの看取りを少しご説明させていただく。
 まずバイタルサインの低下など「患者の死が48時間以内に予測される」と判断された状態(on Critical List)の時に、キーパーソンに連絡が行く。その後患者の宗教背景に応じてチャプレンが相応の儀式を行う(たとえばカトリックであればSacrament of Sicknessを行うなど)。死亡確認は患者の心肺停止時であり、家族がその場に立ち会えないことは多々ある。家族は病室で「最期の別れ」を行い(そこでチャプレンや私たちソーシャルワーカーがサポートに入ることも多い)、それが終わると家族は三々五々自宅に戻り、そこから看護助手による清拭が行われ、遺体は白い布でミイラのように包まれ保管室(Morgue:霊安室というほど儀式ができる場所もないところ)に運ばれる。「病室でのお別れ」に費やす時間は2時間程度が目安であり、5時間も6時間もということは本当にまれ。遺体は警備員立会いのもと業者が搬送し、遺族はFuneral Homeで「葬儀業者によりエンゼルメイクを施された」遺体に対面することになる。ぐるぐるミイラ巻きになった遺体を目にして、「アメリカ人にとって遺体は『魂の入れ物』なんだなぁ」とよく思ったものである。
 なので日本での看取りに初めて立ち会った際にはかなり感動した。「お帰りの着物」について看護師がご家族に話をする絶妙なタイミング、ご家族のペースに合わせた「お別れの時間」、ご家族が参加して行うエンゼルケアとその中での家族へのねぎらいや思い出深いエピソードの共有、そしてスタッフ総出の「お見送り」は、遺体を「その方」として尊重するところにも「こころの細やかさ」が感じられた。それはもちろん遺族に対する大切なグリーフケアになる。死亡確認の時にはその現実が受け止めきれず涙にくれ叫び声をあげる遺族でも、遺体の温度が少しずつ冷めていく時間の経過と共に少しずつ現実を受け入れ、看護師と共にエンゼルケアを行うときには「よくがんばったね」と遺体に向けて声をかけられる――そのプロセスには「そのヒトのペースを見守る」日本的な鷹揚さがあると思う。
 カウンセリングやサポートグループといった形で悲嘆の気持ちを表出し様々な悲嘆反応を認め共有してゆくプロセスも「グリーフケア」として大切であるが、日本各地各病棟で現在行われている「エンゼルケアとお見送り」も「グリーフケア」の大切な第一歩だと感じている。