News Letter No.44 - Feb 2006 -
 
 Current Opinion 
乳がん患者へのセクシュアリティの取り組みについて
〜化学療法オリエンテーションを通して〜

国立病院機構九州がんセンター看護部
野口理恵 松尾裕佳
近松あや 阿比留衣子


【はじめに】
 患者の生活の質を考えたとき、セクシュアリティは患者を取り巻く環境の重要な課題の一つである。
 近年、乳がん治療では、薬物療法の役割が重要視されているが、薬物における副作用で卵巣機能障害や膣粘膜萎縮などの性的変化をもたらす場合がある。加えて、術後のボディイメージの変化があり、患者に精神・心理的影響を及ぼしている。しかし、セクシュアリティはデリケートな問題と考えられ、患者からその悩みを表出することは少ないことが背景の一つとして挙げられる。
 二つ目の背景として、臨床の現場では乳がん患者のセクシュアリティに対して、十分な対応が行われていなかった。その理由として、患者の悩み・不安などを聴く場が設定されていないこと、医療スタッフのセクシュアリティに関する知識が乏しいことが挙げられる。
 そこで、私たちは乳がん患者へのセクシュアリティの取り組みを行っているが、今回は化学療法を受ける患者への看護師の積極的介入について報告する。
【取り組みの目的】
 看護師の介入により、乳がん術後化学療法を受ける患者のセクシュアリティに関する説明・相談のための環境の整備と正しい知識と情報の伝達を行う。
【対象】
 初回化学療法を受ける乳がん術後患者
【方法】
 入院時の化学療法オリエンテーション時と治療終了後の二回、面談を行う。面談は、個室である病棟内面談室を使用し、プライバシーを守って行われる。
 ・一回目の面談:入院直後、化学療法における性機能に関する基本的情報の提供を行う。化学療法パンフレットを使用し、副作用の一つとして性機能に対する影響を説明する。
 ・二回目の面談:治療終了後、プライマリーナースが面談し、セクシュアリティの相談を行う。化学療法における膣分泌液の低下による膣乾燥・性交痛の対策として膣潤滑液ゼリーを配布し、反応を記録用紙に記載する。
【結果】
 潤滑ゼリーの配布を希望41名中22名(54%)、配布をきっかけとして、セクシュアリティについての反応が41名中29名(70%)の患者から得られた。その反応は、Aさんはこのような話は、誰にでも出来る話ではないといわれ、妻としての自分の役割について語られたり、Bさんは必要ないから大丈夫ですと言って笑われたり、Cさんは外来から話をずっと聞きたかった、時期は何時でも、看護師からきっかけを作って欲しいというように多種多様な声を聞くことができた。
【考察】
 病棟で「性」を積極的に話題にするということは、患者も看護師も関わりづらい内容である。その問題に対して、私たちは「PLISSITモデル」を看護師がセクシュアリティについて関わる基本として位置付けている。一般医療者による患者の性への段階的かかわり方としてPLISSITモデル(Annon、1976)が提唱されている。対応段階として、四段階(P:Permission許可;性相談を受け付けるというメッセージを出す、LI:Limited Information基本的情報の提供、SS:Specific Suggestions個別的アドバイスの提供、IT:Intensive Therapy集中的治療)に分かれており、多くの患者に共通する基本的情報提供のレベルと、個別的・専門的対応を要するレベルとに区別されている。まず、初めの二段階、Permission許可;性相談を受け付けるというメッセージを出すことと、Limited Information基本的情報の提供が病棟でできることを目標としている。今回の取り組みを継続することによって、性に対する不安や悩みを持つ患者が、その事を看護師に伝えることで、軽減され、生活の質の維持・向上が出来る事を望んでいる。そして、看護師もその性に対する不安や悩みを、プライバシーを守りながら、応対できる事を望んでいる。
 今後の課題としては、スタッフの教育を行い、化学療法だけではなく、治療における性に関する影響への知識を統一し、乳がん看護の専門性を高めることと、面談でのコミュニケーション力を向上することが、セクシュアリティに関する患者の信頼を得ることに必要だと考える。
文献:
1) アメリカがん協会編、高橋都、針間克己訳:がん患者の<幸せな性>−あなたとパートナーのために.春秋社
2) 高橋都:パートナーとの関係に対するケア.乳がん患者へのトータルアプローチ.217-223、PILARPRESS