News Letter No.44 - Feb 2006 -
 
 Journal Club 
在宅死に関する介護者の体験

国立がんセンター東病院臨床開発センター
精神腫瘍学開発部
秋月伸哉


Home death--the caregivers' experiences.
Singer Y, Bachner YG, Shvartzman P, Carmel S.
J Pain Symptom Manage. 2005;30:70-4.

【背景】
 終末期患者の多くは在宅での死を希望しており、実際に在宅プログラムがあればほとんどの患者を在宅で看取ることができると考えられている。国際的にも在宅での看取りを推進する風潮である。一方で在宅患者の介護者に関する研究は少ない。先行研究では、在宅ケアにおいて不安が大きく、症状緩和、感情的サポート、経済的な負担などの懸念を患者、介護者がもっていることが示されている。
 本研究では、1999-2001年に在宅緩和ケアユニットを利用した介護者と、利用しなかった介護者の体験の比較を行った。
【方法】
 研究対象地域のBeer-Shevaは、人口18万人の県庁所在地であり、幅広い社会層の住人が住んでいる。北アフリカと中央ヨーロッパからの移民が多い。地域のうち特定の2地区に住むがん患者は、毎日介護を担当する介護者が存在し、特定の民間保険会社に入っている場合、在宅緩和ケアプログラムを受けることができる。在宅緩和ケアプログラムは多職種チームであり、医師、看護師、ソーシャルワーカーからなる。サービスは毎日24時間利用可能で、担当チームが各患者に割り当てられる。最後の数日の間は、必要であればほぼ毎日ケアを受けることができる。Beer-Shavaのチームは一度に24人の患者を受け持ち、年間120例を担当し、85%以上の患者が在宅死している。
 本研究の対象グループは、1999-2001の間に在宅緩和ケアプログラムを利用して死亡した特定の2地区のがん患者240名と、利用せずに死亡した404名の介護者を調査対象とし、予備調査を元に作成された質問紙を用いて、家族のがん死の体験に関する認識や感情、可能なら別のセッティングで死なせてやりたかったかどうかなどについて評価した。
【結果】
 調査期間内に240人が在宅緩和ケアプログラムを利用し、その介護者のうち、138名は追跡できず、26名が面接を拒否し、76名が面接調査を受けた。一方404名が在宅緩和ケアプログラムを利用せずにがんセンターで死亡し、その介護者のうち、275名は追跡できず、46名が拒否し、83名が面接調査を受けた。拒否の主な理由は感情的なつらさであった。最終的に面接を行えた159名(76名が在宅プログラム、83名が病院死)の介護者が解析対象となった。
 2群のデモグラフィックな背景にはほとんど差を認めなかったが、在宅プログラム群の社会クラス、教育歴が低く、無職の率が多く、介護者の健康状態が悪いと感じていた。また在宅プログラム群は、患者との関係性をより親密であると回答し、病前により多くの経済的サポートを得ていた。
 患者のケアについて在宅プログラム群の介護者は、介護することについて周囲からのプレッシャーは少なかったが、感情面、技術面での困難から必要なことができなかったと報告した。また、在宅プログラム群の介護者は、身体援助、感情的コーピング、ライフスタイルの変化、経済的な負担、家族関係、介護者の健康について、非在宅プログラム群より困難を多く報告した。医療スタッフへの満足度は、医師、看護師、ソーシャルワーカー、医療者全般のいずれも在宅プログラム群で高かった。
 在宅死の割合は、在宅プログラムが80.3%、非在宅プログラム群が20.5%であった。死に対する態度について、在宅プログラム群の介護者の90%以上が肯定的な体験であると回答したのに対し、非在宅プログラム群では61%であった。また、在宅プログラム群の95%以上の介護者がもし同じ状況になったら同様の介護を行いたいと答えたが、非在宅プログラム群では同様の介護を行いたいと答えたのは76%であった。
【議論】
 終末期在宅ケアの介護者は、病院での終末期介護に比べて、介護の身体的、感情的、経済的な負担や、介護者自身の健康状態や経済的な問題が大きいにもかかわらず、より在宅緩和ケアを好ましいものと考える傾向があることが明らかになった。
 面接実施率の低さ、無作為割付をしていないことなど様々なリミテーションがあるものの、本研究から在宅患者への包括的な緩和ケアサービスの提供がよりよい終末期の体験につながるかもしれないこと、介護者である家族に対して様々なニーズにこたえるシステムが必要であることが示唆された。
【コメント】
 本邦でも医療政策は在宅へとシフトしつつあり、がん医療に関しても化学療法の外来化、終末期在宅ケアの推進などが徐々に行われ始めている。これまでの病院医療とは異なる患者・家族のニーズにこたえるための基礎調査、システム作りが必要になると思われる。