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国立精神・神経センター精神保健研究所
成人精神保健部
松岡 豊
このたび2005年8月18日から21日にかけて東京大学大学院医学系研究科生命・医療倫理人材養成ユニット(赤林朗教授)が主催した「夏期集中生命・医療倫理学入門コース」に参加しましたので、その内容を簡単にご紹介させていただきます。
上記コースは、生命・医療倫理に関心のある社会人や学生の方を対象に、短期間のうちに生命・医療倫理の基礎および倫理委員会の概要を学んでもらうことを目的として、初めて開かれました。コースは講義と演習から構成され、素晴らしい講師陣が素人にも分かりやすく、難しい理論を説明してくださいました。講義では、生命・医療倫理学の概論、倫理学や法の基礎理論、医療倫理の4原則、臨床症例の倫理的検討法、インフォームド・コンセント、ケアの倫理、守秘義務と個人情報保護、医療従事者・患者関係について学び、演習では講義で学んだ様々な理論を実際に使いながら、模擬倫理委員会や倫理コンサルテーションを行いました。午前中は講義、午後は演習という過密スケジュールで、特に初日は覚えることが多すぎてこの先どうなるかと心配しました。しかし、4日目には「倫理的判断を要求される医学的処置や研究の実践においては、個人の経験則や直感に頼るだけではなく、それなりの論理展開や法的裏づけが必要であり、そのためのツールを身につけさせるよう」コースがプログラムされていると実感しました。
中でも個人的に興味深かったのは、小グループに分かれて行った演習でした。私のグループは、医師2名、看護師1名、薬剤師1名、IT関連企業の研究員1名、製薬企業の研究員1名、市役所職員1名、医学生1名で構成され、性別も女性3名、男性5名と、様々な意見が出るよう配慮されていました。今回の倫理コンサルテーションは、「終末期医療における意思決定」で困った医師から倫理的判断を求められるといった設定でした。症例は進行したアルツハイマー病の92歳女性で、大腿骨骨折後に寝たきり、意識障害、嚥下困難といった状態に至り、栄養補給(自然に任せる、点滴のみ、鼻腔経管栄養、胃ろう造設による経管栄養)の方法選択で困っているという状況でした。家族は本人を介護してきたお嫁さんと米国滞在中の孫のみで、お嫁さんは体に傷をつけてまで医学的処置をして欲しくない、亡き夫の嫁の立場の自分が決めることにはためらいがあると言っていました。小グループに分かれて、情報を整理し、その後、当事者である医師、患者のお嫁さん、病院の顧問弁護士に扮したスタッフに会って追加情報を収集し、ケースの検討を行いました。そしてグループ内での討議を重ねて、コンサルタントとしての助言をまとめ各グループから発表するということを行いました。私の属したグループは、胃ろう造設を選択することが法的・倫理的に妥当な判断であるので、お嫁さんと再度話し合いを持ち、胃ろう造設についての懸念や価値観を整理し、代諾者であるお嫁さんが胃ろう造設を選択できるよう説得するという「審議モデル」に基づくコミュニケーションをとることが推奨されるという助言を相談者に返しました。この結論が正しいかどうかは別におくとして、私も同様のケースを実際に経験したことがあるので、とても勉強になりました。
もう一つの目玉が、模擬倫理委員会でした。これは、東海大震災被災を機に発症したPTSD患者を対象にした研究計画書を例に、研究申請がどのように審査されるのか、実践を通して体験し、理解することを目的に行われました。これも小グループに分かれて、それぞれの立場にたった議論を行い、普段なら思いつかないような質問や厳しい指摘などを体感し、医師・医学研究者としてよい勉強になりました。翌日は、各グループから1名代表者が選出され、スタッフも加わって、更に難しい研究計画書を審査するという模擬倫理委員会が行われました。恥ずかしながら私もその一人として参加するという貴重な体験をすることができました。倫理委員会でどのようなことが話し合われているのか、全く知る由もなかったわけですが、倫理審査委員が指摘する法的・倫理的ポイントのいくつかは分かったような気分になりました。
医学・医療は生物学的・心理学的・社会学的、そして倫理的なものだというスローガンはよく耳にして、「ふんふん、そうだ」と納得していました。しかし、今回のコースに参加してみて、自分がいかに倫理のことを理解していないかがよく分かりました。このコースで学んだことを個人の教養に終わらせることなく、臨床研究の実践にいかし、そして同僚や後輩たちに伝えて、わが国における生命・医療倫理のレベルアップに貢献したいという意欲が沸いてきました。夏期集中コースは最初だそうですが、春と秋の普通コースも開かれているそうです。ご興味がおありの方は、一度ウェッブサイト(http://square.umin.ac.jp/CBEL/index.html)をご覧になってはいかがでしょうか。
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