News Letter No.43 - Nov 2005 -
 
 Current Opinion 
緩和ケア病棟における音楽療法の心理学的評価の試み

滋賀県立成人病センター緩和ケア科
堀 泰祐


 わが国においても、音楽療法は着実にホスピス・緩和ケア病棟のなかに取り入れられつつある。私たち も、過去2年間の音楽療法の経験の中で、ほとんどの末期がん患者と家族が音楽療法を肯定的に受け止めていることを実感している。音楽療法は単に参加して楽しいという受動的なものだけではなく、積極的に参加して楽しんだり、参加者との交流を深めたりする場であることも分かった。また、患者と家族の心のびつきを深める場所ともなり、患者の情緒面に強く働きかける作用を持っていることも明らかとなった
1)。
 音楽療法は確かに経験的には末期がん患者と家族に有益なものであると思われるが、その確証を示す報告はまだ少ない。音楽療法の評価については、アンケート形式の質問票による心理学的な指標が多く用いられている。しかし、POMSをはじめとしてこれらの多くの指標が答えるのに時間と労力を要するものであり、体力の衰えた末期がん患者に適用することは事実上上可能である。したがって、緩和ケア病棟において音楽療法の心理学的評価を行うめにはより簡便で負担の少ない方法が必要である。
 私たちはA上安感、B苛立ち、C抑うつ気分を示す三本の線上に印を付けるだけの簡便な方法を採用した。これは疼痛評価尺度として用いられているVAS スケールの方法を応用したものであり、すでに足立らが色彩療法の評価に用いて報告している。10cmの線の両端にそれぞれ左側に、Aもんもんとして上安、Bイライラしている、C落ち込んでゆううつ、一方の右側には、Aほっとして安心、B気持ちがほぐれ心地よい、C元気になっている、とし、現在の気持ちが線分上のどのあたりに位置するかをしてもらう方法で測定した。音楽療法の前後で、線分上左から印までの距離を測定し、その変化を情緒状態の指標とみな
して解析を行った。
 2004年5月から2005年3月までの間に、当センター緩和ケア病棟の患者およびその家族延べ170名を対象に、音楽療法の前後に上記のVASスケールを用いて情緒状態を測定した。全症例で解析すると、A上安感、B苛立ち、C抑うつ気分の三項目いずれも音楽療法後には有意に改善していた。音楽療法に対する参加態度1)で分けると、肯定的参加態度で正の変化が大きく、否定的参加態度ではマイナスに変化ていた。
 今回VASスケールを用いることで、全身状態がある程度上良な患者に対しても音楽療法前後の心理的測定が可能となり、音楽療法後には上安、苛立ち、抑うつ気分共に有意に改善していた2)。今後は、測定する情緒項目の見直しやVASを用いる場合の指標としての信頼性・妥当性の検討が必要と思われる。
1)堀 泰祐: 緩和ケアにおける音楽療法のめざすもの. 緩和医療学: 6(4),345-347,2004
2)若林あさじ、他:末期がん患者に対する音楽療法の有用性に関する研究―セッション前後での情緒変化を数値化する試―. 第5回日本音楽療法学会学術大会要旨集p168,2005.