| コラボレーティブケアは、低収入のラテンアメリカ系うつ病がん患者のうつ病をケアできるか? 予備的RCTの結果 |
国立がんセンター東病院臨床開発センター
精神腫瘍学開発部
秋月伸哉
Dwight-Johnson M, Ell K, Lee PJ. Can collaborative care address
the needs of low-income Latinas with comorbid depression and cancer?
Results from a randomized pilot study. Psychosomatics. 2005 May-Jun;46(3):224-32.
【背景】
うつ病はがん患者に多い精神疾患であり、患者への影響が大きいにもかかわらず現場では見過ごされることが多い。ラテン系アメリカ人は米国で最大のマイノリティーであり、特に低収入の患者はうつのリスクが高く、メンタルケアへのアクセスも少ないことがわかっている。
プライマリケア領域では、1.コミュニティー、2.ヘルスシステム、3.自己管理援助、4.デリバリーシステムのデザイン、5.意思決定の支援、6.臨床情報システムの6つの要素を含むコラボレーティブケアがうつ病治療に有用であることが示されている。本研究では、このモデルががん患者にも応用できると考え、比較試験を行った。
【方法】
研究は南カリフォルニア大学病院外来通院中で、診断後3ヶ月以上の子宮頸がん・乳がん患者を対象に行われた。研究対象候補者はうつ病(PHQ)と気分変調症(PRIME-MD)の自記式質問票を実施し、うつ病もしくは気分変調症と診断されるか、診断されなかった場合ベースラインから1ヵ月後に再度評価を行い抑うつ症状が持続している場合に適格と判断され、2群に割り付けられた。割付は患者に知らされた。
介入群(多面的がん患者うつ病プログラム):
心理療法、抗うつ薬の服薬遵守援助、医療システムの利用援助の訓練を受けた修士レベルのソーシャルワーカーが、評価とがん治療や全般的な健康のためのうつ病治療の重要性についての教育を行う。患者の好みに応じて、抗うつ薬、問題解決療法を初期治療として行う。問題解決療法では、ソーシャルワーカーが週1回8週間の面接を行う。薬物療法では、患者、オンコロジスト、ソーシャルワーカーが抗うつ薬治療を行うためのミーティングを行った上で、定期的な通院時にオンコロジストが処方し、ソーシャルワーカーは診療に同席する。必要に応じて精神科医に電話で相談する。
ソーシャルワーカーは少なくとも2週間おきに、副作用、服薬遵守、うつ病症状についての電話もしくは直接面接を行い、オンコロジストと研究担当精神科医に患者の状態をフィードバックする。2週間に一度の精神科医によるスーパーバイズで全症例をレビューする。8週間の治療で症状が50%以上の改善を認めない場合、精神科医が治療を行う。
対照群(通常ケア):
患者にうつ病の診断と、大学病院の利用可能な精神保健関連のリソースを伝える。研究者が主治医や臨床のソーシャルワーカーと相談することを提案し、カルテにうつ病症状があることを記載する。
測定方法
うつ病症状を初回スクリーニング、4ヶ月、8ヶ月時に評価票(PHQ-9)を用いて電話で評価する。治療遵守は治療とフォローアップ診察に来ているかどうかで判断した。
【結果】
401名の候補者中、269名がうつ病スクリーニングに同意、そのうち68例がうつ病か気分変調症と診断された。診断されなかった患者のうち10例は初回、1ヵ月後とも持続して抑うつ症状を呈し、1ヵ月後のスクリーニングで3名がうつ病と追加で診断された。この81名のうち、55名(68%)が研究参加に同意(28例が介入群、27例が対照群)、53例がベースライン調査を、4ヶ月後調査は介入群15名、対照群15名、8ヵ月後調査は介入群17名、対照群12名が完遂した。
ベースラインでは両群とも約半数がPHQで重症うつ病相当であった。QOLのphysical well-beingとsocial/family
well beingが介入群で有意に高かったが、それ以外の要因は両群で差を認めなかった。
8ヵ月後に50%以上のうつ病症状の改善を認めた症例の割合が、介入群37%に対し対照群12%と介入群で有意に高かった。抗がん治療遵守には差を認めなかった。QOLについては8か月後のemotional
well-beingが有意に高かった。
介入群のうち18%は何のサービスも受けなかった。43%が4回以上の問題解決療法を受け、11%が薬物療法を受けた。
うつ病ケアへのバリアとしては、身体的な病期のため来院できないと感じる(21%)、予約を忘れた(21%)、子供など家族の世話(21%)、個人的な問題(14%)、経済的な問題(14%)、引っ越した(14%)、偏見(11%)であった。実際には受診が1ヶ月以上あき薬物療法の調整が困難なことも多かった。また、レジデントがローテーションするためオンコロジスト教育も困難であった。
【ディスカッション】
今回の結果から多面的がん患者うつ病プログラムがラテンアメリカ系のがん患者という脆弱性の高い集団に対して、有効である可能性が示唆された。一方で介入群でも多くの患者が適切な治療を受けられなかったことから、ビデオなどの識字率が低い対象への教材、家族用の教材、より効率的なチームメンバーの役割分担、オンコロジストと精神科医の症例を通じた教育セッション、インターネットを用いた治療状況追跡システム、治療カンファレンスへの精神科医の参加などの工夫が必要と考えた。本研究のリミテーションとして、ベースラインのQOLが対照群で低かったこと、盲検化できなかったこと、症例数の少なさがあげられる。
【コメント】
今回の報告は米国のマイノリティーを対象としたものだが、精神的ケアへのアクセスが不十分であることは本邦のがん患者においても問題である。本邦の医療システムに合致した患者・医療者教育、ケアコーディネーションを含めた多面的ケアの開発が望まれる。
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