News Letter No.43 - Nov 2005 -
 
 Journal Club 
がん化学療法の認知機能に対する効果に関するメタアナリシス

国立がんセンター東病院
臨床開発センター 精神腫瘍学開発部
稲垣正俊


A metaanalysis of studies of the effects of cancer chemotherapy on various domains of cognitive function.
Jansen CE, Miaskowski C, Dodd M, Dowling G, Kramer J.
Cancer. 4(10):2222-2233,2005

 がん患者は、記憶、思考、集中に困難を感じていると報告されているが、化学療法の認知機能に対する影響についての結論は得られていない。
 過去に、化学療法以外の他治療法も含めた抗がん治療の認知機能に対する効果のメタアナリシスが報告されている。抗がん治療群と、そのbaseline値もしくは対照群(抗がん治療を受けてないがん患者及び健常対照者)又は標準正常値との間で、注意、実行機能、情報処理速度、運動機能、視空間認知、言語記憶、視覚記憶が比較され、対照群とは、全ての認知機能項目に有意な差を認めたが、標準正常値との比較では、実行機能、運動機能、言語記憶のみ有意で、baseline値との比較では有意な差はどれにも認めなかった。この研究は、個々の抗がん治療の種類を特定せず全体の影響として比較しており、化学療法に特異的な結果は示していない。
 本研究では、メタアナリシスを用いてstandardized mean difference effect size(ESsm)を算出し、標準正常値、対照群、化学療法前のbaseline値と種々の認知機能を比較し、化学療法の影響について検討した。
 1966年から2004年の英文文献をPubMed, Psychinfo, CogNet, CINAHL, Cochrane Database of Systemic Reviewを元に、chemotherapy, cognitive impairment,cognitive deficits, cancer, antineoplastic agents, neuropsychologic testという単語を用いて検索した。383文献から、原著、成人対象、化学療法を受けたがん患者の神経精神医学的テスト、脳腫瘍を含まない、認知機能に影響する他抗がん治療(頭部放射線照射等)を受けていない、という基準で16研究を選択した。神経精神医学的テストは、注意集中力、実行機能、情報処理速度、言語、運動機能、視空間機能、言語記憶、視覚記憶に分類した。ESsmを計算し、その正負を認知機能の高低に対応させた。
 1980年代に3研究、1990年代に7研究、2000年代に6研究あった。12が横断研究で4が縦断研究であった。サンプル数は996名で、化学療法群は653名(現在化学療法中228名、がん生存者425名)、対照群343名(局所治療のみのがん患者207名、健常対照者136名)であった。平均年齢は化学療法群47.6歳、対照群50.9歳だった。84%が女性で58%が乳がん患者だった。治療から1年以内が20%、1-2年が31%、2-5年が14%、5年以上11%だった。
 0.2以下の効果量を無、0.2-0.5を小、0.5-0.8を中、0.8以上を大とすると、各認知機能の平均効果量は「無」から「中」で、認知機能低下を示す負の値であった。「中」の効果量を示した視覚記憶のみ統計学的に有意であった。標準正常値との比較では、有意な「中」の効果量が実行機能、情報処理速度、言語記憶、視覚記憶機能に認められた。健常対照群と局所治療のみのがん患者群および化学療法前baseline値を合わせた対照群と比較すると、効果量は「無」から「小」に留まり、有意ではなかった。更に、対象群の中の局所治療のみのがん患者に限定すると効果量は「無」から「小」となり、有意でない。健常対照群のみに限定すると有意な「小」効果量が言語機能、言語記憶に認められた。
 上記の結果は、様々な化学療法レジメン、がん部位、病期、調査時期を含み、高用量化学療法や骨髄移植例も含む。高用量化学療法を除外後も結果は変わらず、多くを占める乳がん患者のみの再解析でも、同様の結果であった。全ての効果量が認知機能低下を示す負の方向であったことは、以前のメタアナリシスの結果と同様であり、化学療法を含めた抗がん治療が認知機能に影響するという仮説を支持する。しかし、限られた症例数のため、結果の解釈には注意を要する。また、化学療法前に存在するかもしれない認知機能障害や、繰り返し行うテストによる学習効果が、効果量を小さく見せている可能性がある。使用された神経精神医学的テストは化学療法による僅かな変化を検出できるほど感度が十分でないかもしれない。また、様々な時期に行われたテスト結果をまとめた解析のため注意が必要である。
 感度が高く信頼できるテストを用いて、急性期、長期の影響を分けた研究が必要である。認知機能障害がどの程度、患者の苦痛と関連するかについての更なる研究も必要である。