News Letter No.43 - Nov 2005 -
 
 Journal Club 
安楽死と抑うつ: 終末期がん患者におけるプロスペクティブコホート研究

国立がんセンター東病院精神腫瘍科
嶋本正弥


Euthanasia and depression: a prospective cohort study among terminally ill cancer patients.
van der Lee ML, van der Bom JG, Swarte NB, Heintz AP, de Graeff A, van den Bout J.
J Clin Oncol. 2005 Sep 20;23(27):6607-12

【目的】 最近の研究で終末期患者が死を希望したり、自殺幇助に関心を持ったりすることは抑うつと関連していることがわかってきた。しかし、これまでの研究は安楽死の習慣がある環境で安楽死を繰り返し要請することと同等とは考えられないこと、また、我々の経験では、安楽死を要請してきた時は大抵熟考され、抑うつとは関係ないことが多いことがある。オランダでは、終末期医療に関する全国的な研究で安楽死はすべてのがん関連死亡の7.4%であることが示されているが、抑うつが安楽死の要請に関連しているかどうかは研究されていない。今回の研究の目的は終末期がん患者で抑うつと安楽死要請の頻度との関連を検討した。
【患者と方法】 1999年9月〜2003年8月、Medical Center Utrecht大学(オランダ)の婦人科、腫瘍科、肺疾患と頭頚部外科において、予後3カ月以下のがん患者138名でプロスペクティブコホート研究を行った。 参加者には「抑うつ」を特定するために、HADSを施行し、20点をカットオフ値として使用した。抑うつと安楽死要請の発生との関連をキャプラン-マイヤーカーブとCox復帰分析を使用し評価した。
【結果】 抑うつのある32名の患者のうちの14名(44%)が、抑うつのない105名の患者のうち16名(15%)がフォローアップ期間中に安楽死を要請した。抑うつのある患者が安楽死を要請するリスクは、抑うつのない患者より4.1倍(95% CI, 2.0 to 8.5)高いという結果であった。
【結論】 我々の臨床の印象では安楽死要請はよくよく考えた上での決定で、安楽死を要請する患者は切迫した死をより受容しており、抑うつをきたしている患者は少ないのではないかと考えていた。そこで、今回の研究では抑うつと安楽死を要請する頻度は逆の相関を示すと仮定していた。しかし、今回の研究結果では、予後3カ月未満のがん患者の抑うつは安楽死を要請する頻度が高いことと関連しているという結果であった。これまでに、安楽死要請を取り扱うことの標準の手続きの一部として精神医学的評価を行うことが検討されたことはあったが、Banninkらは、精神医学的評価が方針の変更に関与するのは9%にすぎないため、標準の手続きの一部としての精神医学的評価は必要ないと結論している。しかし、今回の結果から、我々は、抑うつが、意思決定能力に影響を及ぼしている疑いがあるときは、精神医学的評価が末期患者に負担をかけるかもしれないというディメリットはあるかもしれないが、精神科医に意見を聞くことを奨励する。終末期の抑うつが適切に治療できるのであれば、安楽死要請の頻度を下げることになるかはさらなる検討が必要と思われる。