News Letter No.43 - Nov 2005 -
 
 Journal Club 
終末期患者に対する新たな心理療法的介入:Dignity therapy

名古屋市立大学大学院
医学研究科精神・認知・行動医学
明智龍男


Dignity therapy: a novel
psychotherapeutic intervention for patients near the end of life.
Chochinov HM, et al. J Clin Oncol 23:55205525,2005


【背景】終末期ケアに携わる医療者にとって最も難しいケアの一つに患者の尊厳を維持することがあげられる。尊厳の低下は、抑うつ、不安、希死念慮、絶望感、他者への重荷になっているという感覚、QOLと関連することが知られているが、尊厳を維持する、あるいは改善させるための既存の治療的アプローチは存在しない。
【目的】終末期患者の心理社会的および実存的苦痛を軽減するために開発された新たな治療法であるdignity therapyの有効性に関して予備的な検討を行った。
【方法】カナダのウイニペグ、オーストラリアのパースにて入院中の推定予後6ヶ月未満の終末期患者および在宅緩和ケアを受けている成人の患者を対象として、dignity psychotherapyを行い、その前後において、尊厳(sense of dignity)、抑うつ(depression)、苦悩(suffering)、絶望感(hopelessness)、人生における目的(sense of purpose)、意味(sense of meaning)、希死念慮(desire for death)、生きる意志(will to live)、自殺念慮(suicidality)を評価した。
Dignity therapyでは、患者に最も大切なことあるいは最も記憶に留めておいて欲しいことについて話してもらった。そして、その内容は書き起こされ、友人や家族に残すことができるような形に編集された後にgenerativity documentとして患者に提供された。
【結果】最終的に100名の患者が研究を完遂した。患者背景は以下の通りであった。18%が乳がん、17%が肺がん、15%が胃腸系のがん、13%が泌尿生殖器系で、平均年齢は63.9+14.2歳(範囲:22?95歳)、女性が44%。面接に参加した時期は、中央値で死亡前51日(範囲:3-377日)、generativity documentが渡されたのは中央値で死亡前40日(範囲:0-371日)であった。
以下の割合の患者に好ましい効果がみられた。本介入への満足感91%、有用性86%、尊厳の増加76%、人生に対する目的感の増加68%、意味の増加67%、生きる意思の改善47%。また81%の患者は、本介入法は家族にとっても援助になるものであろうと答えた。介入前後において、苦悩と抑うつに有意な改善が認められた。一方、絶望感、希死念慮、不安、生きる意思、自殺念慮には有意な差は認めなかった。
介入前の心理社会的苦痛が強いほど、介入に対する満足感が高く、有用性を高く評価していた。
【コメント】dignity therapyは、臨死期における苦悩および苦痛に対する新たな介入法として期待される。本報告は、終末期という臨床状況においても実施可能性が十分考えられる極めて画期的な介入方法を紹介しており、サイコオンコロジー、緩和ケアに携わる多くの医療者の関心を集めることであろう。