News Letter No.43 - Nov 2005 -
 
 Journal Club 
がん疼痛にオピオイド投与を受けている患者における鎮静及び他の症状に対するドネペジルの効果。

福井県済生会病院ホスピス
谷 一彦


The Effect of Donepezil on Sedation and Other Symptoms in Patients Receiving Opioids for Cancer Pain: A Pilot Study
Bruera E, et al. J Pain Symptom Manage 2003;26;1049-1054

【はじめに】
 鎮静効果はオピオイド鎮痛剤でよくみられる、かつ深刻な副作用である。このオピオイドによる鎮静効果に対し、減量、オピオイド・ローテション、精神刺激薬など、いくつかの方策が提唱されている。メチルフェニデートはオピオイドによる鎮静効果を減少させ、認知機能を高めることが認められている。しかし、耐性の形成、興奮や不安を悪化させる可能性、心血管系の安全性や依存についての懸念からその使用は制限される。
 ドネペジルは新しい長時間作用型の選択的アセチルコリンエステラーゼ阻害薬であり、明らかな相互作用はなく、アルツハイマー病の患者において高い認容性がある。最近の報告では、6名の進行がんでオピオイドによる鎮静効果のある患者でのドネペジルによる覚醒度の改善が示されている。そこで、がん疼痛を有する患者におけるオピオイドによる鎮静効果および関連する症状管理でのドネペジルの有効性を評価するため、1週間の open prospective pilot study を施行した。
【方法】
 18歳以上で、強オピオイドによる治療を受け、4日間以上、4/10以上の強度のオピオイドによる鎮静効果を有し、痴呆のない患者を対象とした。ベースラインの評価は、疼痛、疲労感/倦怠感、sedation/drowsiness 、嘔気、不安、抑うつ、食欲不振、呼吸困難、健康感についてEdmonton Symptom Assessment Scale(ESAS) により0?10のスケールで評価された。便通、不眠についても評価された。倦怠感はFunctional Assessment of Chronic Illness Therapy-Fatigue(FACIT-Fatigue)でも評価された。ドネペジルの副作用はNational Cancer Institute common toxicity criteriaにより評価された。
 患者は7日間毎朝5mgのドネペジルの服用を受けた。3日目に副作用と、ESASによる疲労感/倦怠感、sedation/drowsinessについての評価が行われ、7日目にベースラインの評価が繰り返され、総合的な有用性(0?7)が質問された。
 統計学的分析はpaired t test及びnon-parametric sign testで行われた。27名中7名の脱落があり、鎮静と倦怠感の主要な結果については二つの方法、すなわち20名の完全なデーターによるものと、脱落者をnonresponderとして扱った27名のデーターで示した。
【結果】
 27名の患者が登録され、年齢の中央値は52歳(24?75)、18名(67%)が女性、モルヒネの経口換算値の中央値は180mg(30?600)であった。7名の患者が脱落し、その内訳は3名は他の身体疾患のため、1名は以前からあった筋けいれんの増悪、3名は軽度から中等度の嘔気のためであった。
 sedation/drowsiness及び倦怠感/疲労感のベースライン値はかなり重篤(20名、sedation 6.70±1.1、fatigue 7.35±1.5)であったが、3日目(sedation 4.48±2.4、p=0.0008、fatigue 4.03±2.7、p=0.0002)、7日目(sedation 4.5±2.9、p=0.004、fatigue 5.15±2.9、p=0.002)も有意に改善した。27名のデーターではsedationの値の分布が不均一でnon-parametric sign testを使用し、有意ではあったが、有意性は劣った(p=0.035)。
 FACIT-Fatigueも有意に改善し、不安、健康感、睡眠、抑うつ、食欲不振でも改善が認められた。便通はベースラインにて便秘のあった8名で改善し、便秘のなかった者では変化なかった。試験終了後20名中17名がドネペジルの継続を希望した。副作用としては嘔気、下痢、筋肉けいれん、食欲不振などがみられたが、全体としてはよく認容された。
【考察】
 今回のopen pilot studyにより、毎朝5mgのドネペジルが、がん疼痛の治療にオピオイドを使用している患者の鎮静、倦怠感、健康感、不安、便秘を有意に改善させることが認められた。ドネペジルは状態の悪い患者にもよく認容され、脱落率は同様の研究と同じであった。不安の改善はすでに報告されている痴呆やパーキンソン病での精神・行動面へのドネペジルの効果と一致した。中枢性のコリン作動性効果は消化管の運動性も改善させるかもしれないが、消化器症状はドネペジルの副作用でもあり、進行がんでの有用性はさらなる検討を要す。今回の研究はunblinded pilot studyであり、また脱落者の取り扱いの問題からその解釈に制限はあるが、ドネペジルはがん疼痛患者でのオピオイドによる鎮静に対する治療、および、進行がんでの神経心理学的・消化器症状の治療においてさらなる研究を行うに値すると考えられる。