News Letter No.42 - Aug 2005 -
 
 Journal Club
乳がん患者の配偶者における喪失予期等のストレス要因と外傷性ストレス症状の関連

国立がんセンター中央病院精神科
心理療法士
浅井真理子


Butler LD, Spiegel D, et al  Psycho-Oncology 14:492-502, 2005
 
【背景と目的】
 初期の乳がん患者やその患者家族の外傷性ストレス症状が報告されている。筆者らはこれまでに転移性乳がん患者は死が近づくにつれてこのような症状が増加すること、約半数の患者に臨床的な症状が認められることを報告している。転移性がん患者のストレス要因としては、過去の死別体験、現在の患者の苦痛、といった要因のみならず、常に生命が脅かされ死を予期した状況に起因した、予期悲嘆と呼ばれる未来に関連したストレス要因が特徴的である。一方、これまでに転移性・再発乳がん患者の配偶者を対象とした研究はない。そこで本研究では転移性・再発乳がん患者の配偶者を対象にストレス要因として外傷性ストレス症状(侵入、回避)、家族の死、ストレスの自覚、喪失予期などの項目と、死別前後の外傷性ストレス症状との関連を検討した。
【方法】
 対象・セッティング>別件の無作為化比較試験(治療群:グループ療法および心理教育を行なった群と対照群:心理教育のみの群で適応と生存を比較)に参加したサンフランシスコ周辺在住の転移性または再発乳がん患者の配偶者50名。(治療群患者の配偶者23名は月1回の家族グループに参加したが、家族グループの効果に関しては別報。本報では統計処理で調整)デザイン>縦断研究。死別前(50名対象)と死別後(33名対象)に郵送調査。評価項目>外傷性ストレス症状はIES(Impact of Event Scale:侵入、回避の2下位尺度)、家族の死はライフイベント尺度(項目の一部使用)、ストレスの自覚はCohenらのPSS(Perceived Stress scale:項目の一部使用)、喪失予期はHorowitz らの喪失予期尺度(未標準化、項目の一部使用)により評価。解析>死別前後の外傷性ストレス症状を従属変数、死別前のストレス要因を独立変数として同時多変量解析を実施。
【結果】
 配偶者は平均年齢56.5歳、94%が白人。死別後調査は死別6.7ヶ月後(平均)に実施された。死別前の時点で、IESがカットオフ値以上の配偶者は、侵入症状で26%、回避症状で12%、そのいずれかで34%であった。死別前と比較して死別後は侵入症状が有意に増加したが(p<0.01)回避症状は変化しなかった。死別前に関しては、侵入症状とストレスの自覚(p<0.01)や喪失予期(p<0.05)が有意に関連し、回避症状と喪失予期(p<0.01)が有意に関連した。一方、死別後に関しては、侵入症状と死別前の侵入症状(p<0.01)、家族の死(p<0.05)、家族グループ参加(p<0.05)が有意に関連し、回避症状と喪失予期(p<0.05)、家族の死(p<0.05)が有意に関連した。
【考察】
 死別前の配偶者の約1/3が外傷性ストレス症状を示し、死別後の外傷性ストレス症状は死別前の症状、家族の死、家族グループ参加に関連することから、家族の死を経験した配偶者の外傷性ストレス症状に対する心理的介入が期待できる。死別前の喪失予期が死別前後の外傷性ストレス症状と有意に関連したことは注目に値する。一方、配偶者と患者の外傷性ストレス症状は直接関連しなかった。本研究のLimitationとしては1)対象人数が少ない、2)喪失予期の評価が標準化された尺度を使用していない、3) 外傷性ストレス症状としてPTSD症状の一部分のみを評価した、等が挙げられる。
(コメント)
 本研究で注目される点は、死別前の配偶者の予期悲嘆を評価したことである。死別前のがん患者と家族にとって予期悲嘆は大きな精神的負担であることが予測されるが、標準化された評価尺度が存在せず、評価研究はPrigersonらの予備的検討のみである(1)。一方、進行がん患者本人の予期悲嘆の評価尺度が最近報告されている(2)。がん患者および家族の悲嘆評価研究はこれからの研究課題であると思われる。
 
1)Prigerson HG, et al Am J Geriatr Psychiatry 11?:309-319,2003
2)Mystakidou K, et al Support Care Cancer, 2005