News Letter No.42 - Aug 2005 -
 
 Journal Club
トラウマ直後の遺伝子発現パターンが4ヵ月後のPTSDを予測する

国立精神・神経センター精神保健研究所
成人精神保健部
松岡 豊


Segman RH, Golster-Dubner T, Friedman N, Kaminski N, Shalev AY.: Peripheral blood mononuclear cell gene expression profiles identify emergent post-traumatic stress disorder among trauma survivors. Molecular Psychiatry(2005)10:500-513
 
 PTSDの生涯有病率は9-14%と言われ、頻度の多い精神疾患であり、双生児を用いた臨床遺伝学的研究からも何らかの生物学的基盤が示唆されている。そして生物学的差異がおそらくPTSD症状の起始、経過、重症度に関連し、その差異は外傷体験の曝露中や曝露後における遺伝子の転写の違いに関連しているという意見もある。今回、Shalevらのグループは、トラウマ直後の末梢血細胞における遺伝子発現パターンの差異がその後のPTSD発症の代替標識になるかもしれないと考え、それを検証するパイロット研究を報告したので紹介する。
 Segmanらは、イスラエルの総合病院救命救急室に搬送された18−65歳のトラウマ体験者のうち、トラウマから4ヶ月後にPTSDと診断された13名とDSM-IVの・軸診断がつかなかった11名を解析対象(92%は交通事故)とした。血液採取は入院時と4ヵ月後、精神医学的評価はClinician-Administered PTSD Scale、Impact of Event Scale revised(IES-R)を用いて1週間後、1ヵ月後、4ヵ月後に行われた。オリゴヌクレオチド・マイクロアレイを用いて末梢血単核球細胞から抽出されたRNAを解析し、トラウマ直後と4ヵ月後の遺伝子発現パターンを、後から群分けした二群間で比較検討した。その結果、両時点の遺伝子発現パターンは、1ヵ月後と4ヵ月後にPTSDと診断された患者間で有意に異なっていた。そして両時点の遺伝子発現パターンは4ヵ月後のIES-Rスコア(侵入、麻痺・回避、過覚醒)と相関していた。また精神的に影響を受けたトラウマ体験者で、ストレス応答における神経内分泌変化に影響する転写活性に関連した末梢血単核球細胞の遺伝子発現(例:GABA-A受容体、セロトニン受容体、17α-21ハイドロキシレースなど)が低下していることが示された。
 本研究は、トラウマ直後における末梢血単核球細胞の遺伝子発現を解析すると、その後に誰がPTSDを発症するかを予測し、早期介入できる可能性を示した初めての研究である。著者らは最後に、サンプル数を増やし、特異的な遺伝子、死後脳、MRI画像との関連研究が今後期待されると述べている。がん臨床においてもPTSDの部分症状を有すると判断される患者さんは多い。がん告知後にも遺伝子発現は生じていると推測される。従って、がん臨床における少ない精神医学的資源を有意義に活用するためにも、精神的苦痛が出現する可能性のある人を重点的にフォローする体制作りに、この知見は役立つであろう。