| 造血幹細胞移植におけるせん妄症状― せん妄症状、気分状態、時間的経過 |
都立駒込病院 神経科
赤穂理絵
Clinical presentation of delirium in patients undergoing hematopoietic
stem cell transplantation: Delirium and distress symptom and time
course
Fann JR, Alfano CM, Burington BE, et al. Cancer 2005:103(4):810-820
【背景と目的】
せん妄は造血幹細胞移植において高頻度に出現することが知られており、合併症を引き起こす可能性や死亡率増加との関連が指摘されている。せん妄は治療可能であるにもかかわらず、造血幹細胞移植時には症状が多様な形であらわれるゆえに、正確な診断に結びついていないことも多い。この研究では、より早期にせん妄を認識するための一助とすることを目的として、・因子分析を用いて移植におけるせん妄の主要症候を抽出し、症状の経時的変化を調べる、・せん妄を生じない群(no
delirium)、一時的にせん妄症状を呈する群(delirium event)、せん妄が持続する群(delirium episode)の差違を調べる、・せん妄に合併するaffective
distress、fatigue、疼痛の経過を調べる。
【対象と方法】
1997年から1999年にFred Hutchinson Cancer Research Centerにおいて、造血幹細胞移植をうけた22−62歳の90名の患者を対象とした。
前処置が始まる移植7日前から移植後30日までの期間、毎週3回(月・水・金の同じ時刻)、せん妄症状、気分状態、疼痛についての評価がおこなわれた。評価尺度としては、せん妄を定義するためのDelirium
Rating Scale(DRS)、せん妄の重症度をみるためのMemorial Delirium Assessment Scale(MDAS)、気分状態をみるためのProfile
of Mood States(POMS)、疼痛評価には言語的に10段階であらわすPain Scoreが用いられた。
せん妄の定義としてDRSのカットオフポイントである12点を超えるものとし、一度も12点を超えないものをno delirium群、一回でも12点を超えるたものをdelirium
event群、連続する評価3回のうち2回以上12点を超えた場合delirium episode群とした。
【結果】
50%にあたる45名がせん妄を呈し(delirium episode群)、delirium event群は21名、no delirium群は24名であった。Delirium
episodeは約10日間持続し、重症度のピークは移植後2週目の終わりであった。Delirium episode群のうち86%は、(psychomotor
disturbanceスコアにおいて)低活動型を示していた。
因子分析からはPsychosis-behavior、Cognition、Mood-consciousnessの3つのFactorが抽出された。
Delirium episode群の症状特徴として、急激にはじまって持続するpsychomotor disturbanceと睡眠―覚醒リズム障害、経過中悪化し続ける認知障害が認められた。Psychosis-behaviorと認知障害得点の悪化は、せん妄が生じる約4日前から出現していた。
移植後のPOMS得点によるaffective distress、fatigueは、せん妄の有無かかわらず類似の時間的経過を示すが、これら症状の強さは、MDASによるせん妄重症度に応じて増減していた。またaffective
distress、fatigueは、せん妄症状のうち特に Psychosis-behaviorとの強い関連が認められた。
疼痛の増強は、せん妄重症化に数日先行して認められた。
【結語】
造血幹細胞移植において、50%にせん妄を認め、そのほとんどが低活動型であった。せん妄の有無を判断する優位な症状としては、Psychosis-behavior、Cognitive
disturbance、Mood-consciousnessの3つがあげられた。つまり造血幹細胞移植においては、焦燥・幻覚・妄想・見当識障害など古典的な症状の存在に頼らず、psychomotor
behaviorにおける活動性低下、(注意力低下やワーキングメモリーの障害をはじめとする)認知障害、sleep-wake サイクルの変化といった症状が、せん妄を早期にみわける症状として重視されるべきであることが示唆された。
Affective distress、fatigueがせん妄症状増悪に従って急激に悪化することからは、affective distress、fatigueの存在がせん妄を気付かせるきっかけになる可能性が示された。
また疼痛増悪がせん妄症状に先行して出現することから、疼痛がせん妄の潜在的リスクファクターである可能性や、疼痛をコントロールすることの重要性も示唆された。
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