News Letter No.39 - Nov 2004 -
 
 Journal Club
緩和ケア医によるうつ病の評価、治療の現状

国立がんセンター東病院精神腫瘍科
嶋本正弥



How do palliative medicine physicians assess and manage depression
Iain Lawrie、Mari Lloyd-Williams、Fiona Taylor
Palliative Medicine 2004;18:234-238
【はじめに】
 一般人口に比較して進行がん患者の精神疾患有病率は高く、進行がん患者の20〜30%が精神科疾患と診断され、なかでもうつ病が多い。診断基準の問題や専門家不在などが影響していること、終末期は悲しんでも当然という考えがあることなどが関与しているものと思われ、有病率は報告によりまちまちである。進行がん患者で精神疾患に罹患している方のおよそ80%は見過ごされ、無治療の状態である。
 進行がん患者では、うつ病症状項目のうち易疲労性・気力減退、食欲低下・体重減少、睡眠障害の3項目は存在することが多く、身体症状を項目に含めるかは議論のあるところで、もし含めるとすればそれらの重要性をどう取り扱うかという問題も生じてくる。
 うつ病患者の中には精神医療専門家でないと診断困難な患者も存在するが、多くの患者は精神医療専門家でなくても、必要な技術を持った医師、看護師が適切に評価することが可能である。患者を精神医療専門家へ相談したり、紹介したりすることができるシステムが確立されることが理想的ではあるが、そのようなシステムが確立しているホスピスはほとんど存在しない。
 本研究ではホスピスに勤務する経験を有した医師から卒後の医師が終末期患者のうつ病をいかに評価し治療しているか、またどのような問題を抱えているか検討した。
【方法】
 Hospice and Palliative Care Services名簿に記載されたイギリスの全緩和ケア施設へ質問紙を郵送した。質問内容としては緩和ケア患者のうつ病を常に評価しているか、その際スクリーニングツールを使用しているか、うつ病を評価する際どの症状項目が重要と考えているか、うつ病と診断された患者に薬物療法、非薬物療法を含めどのように治療しているか、緩和ケア患者のうつ病診断・治療での苦労、精神医療専門家へどのように紹介しているかなどである。回答は匿名とし、資格、資格取得からの年数、性別、現在の役職を記載してもらった。
【結果】
 213施設へ質問用紙を郵送し、134施設から回答があり、回答率は63%、男女比は男性40%、女性60%であった。73%の医師はうつ病を常に評価していた。半数の医師はスクリーニングツールを使用せず、27%はHADSを使用、10%は気持ちが落ち込んでいませんかと尋ね、7%はEdinburgh Depression Scaleを使用、BASDECツールを使用しているという回答も一例あった。うつ病を評価するのに有用と考えられている症状は抑うつ気分(78%)、絶望感(56%)、無価値感(50%)、気力の減退(42%)であった。うつ病と診断した患者への薬物療法についての質問では75%がSSRIを、25%がTCAを、中枢神経刺激薬と回答したのは6%にすぎなかった。3%はSt John’s wortと回答した。回答者の61%はうつ病症状評価が困難であると報告している。47%の回答者から精神医療専門家へ紹介しても実際の診療までの時間がかかること、精神医療専門家へ受診できないこと、リエゾン精神医療という形態が存在しないことなどの難しさが問題点として浮き彫りとなった。
【考察】
 本研究は緩和ケア医がうつ病をどのように診断、治療しているか調査した初めての研究である。この研究は医師がうつ病の患者に対しどのよう評価、治療を行って行くのかを質問したにすぎず、実際の状況を評価したものではないが、がん患者で精神疾患に罹患している多くの方は見過ごされ、無治療の状態であるという最近の報告を反映したものとなった。
 緩和ケア医療に従事した経験年数、精神医療の研修の有無などの情報がないという制限はあるが、緩和ケア医療に携わる医師が臨床研修において精神医療にも触れる機会があったと思われるにもかかわらず、うつ病の診断、治療を困難と感じていることが明らかとなった。イギリスではリエゾン精神科医、心理士が全国的に不足しており、約半数の回答者が精神医療専門家へ紹介することが困難であるという体験をしていた。サイコオンコロジーが専門分野と認識されているアメリカや他のヨーロッパ諸国と異なり、イギリスではサイコオンコロジーの専門家へすぐに依頼することができない。精神疾患に罹患した緩和ケア患者は、経験をつんだ医療スタッフにより治療されているが、治療抵抗性の症状がある患者のために、例えば、精神医療専門家へ依頼できるよう、その方法を確立することが重要である。
 本研究から緩和ケアを専門とする医療者はうつ病、他の精神疾患の症状を評価、治療できる経験をつむ必要があること、また、サイコオンコロジー専門教育コースが利用できる体制が確立されることを提言する。