| 自殺企図と赤血球膜におけるn3系脂肪酸 中国でのケースコントロールスタディー |
国立がんセンター研究所支所
精神腫瘍学研究部
小早川 誠
Suicide Attempt and n-3 Fatty Acid Levels in Red Blood Cells: A
Case Control Study in China. Mingming Huan, Kei Hamasaki(浜崎景), Tomohito
Hamasaki(浜崎智仁) et.al. Biol Psychiatry. 2004 Oct 1;56(7):490-6
【はじめに】臨床の場面ではがん患者の自殺に遭遇することもまれではなく、家族や医療者への影響も大きい。我々医療者にとって自殺の抑止は大きな課題である。最近、Biological
Psychiatry誌に自殺とn3系脂肪酸の関連についての興味深い報告がなされていた。n3系脂肪酸はうつ aや双極性障害、統合失調症、アルツハイマー病など、様々な精神疾患、神経疾患との関連がいわれており、これらの疾患への治療薬あるいは予防薬としての可能性を秘めている。この論文は直接的にうつ病などの精神疾患との関連を見たものではないが、魚油に含まれるn3系脂肪酸が
ゥ殺のリスクを軽減させる可能性を示唆するものとして重要な報告の一つと考える。
【背景】中国では自殺が15−34歳の比較的若い世代の死亡原因のトップである。1995年から1999年までの間、年間10万人に23人の割合で自殺が報告された。欧米諸国とは対照的に中国における自殺は田舎に多く、特に若い女性に多い。また、自殺の最も主要な原因は急性ストレスであり、中国では自殺を抑止するような強い宗教的あるいは法的力がないため、安易にストレスから逃れるために自殺するのだと考えられている。自殺企図は繰り返されることが欧米の研究で報告されており、そのリスクファクターを明らかにすることは重要である。フィンランドや本邦で行われた疫学研究から魚類の摂取が自殺のリスクファクターであることが示されてきた。今回赤血球中のエイコサペンタエン酸(EPA)分画が自殺企図のリスクファクターになるか否かについて初めてケースコントロール研究を行った。
【方法】大連(中国)の3つの大連医科大学関連の病院(大連医科大学校付属第2病院、大連友好病院、大連中央病院)に入院した患者のうち、自殺企図で入院したものをケースとし、自殺以外の外傷で入院したものをコントロールとしてそれぞれ100例ずつ集積した。ケースとコント
香[ルは性別、3歳までの差で年齢、現在の喫煙状況の3要因でマッチングした。コントロールはケースが入院してから1週間以内に同じ病院から選出した。135例の自殺企図者のうち、アルコールや不法な薬剤、幻覚、妄想、痴呆等のため面接が困難なものを除き、119例に研究の説明
した結果、うち100例が研究に同意し参加した。同様に自殺以外の外傷で入院した147例のうち、面接が困難な17例を除いた130例中100例が研究に参加した。測定サンプルについては、入院後速やかにEDTA入りの採血管で採血し、赤血球を生理食塩水で2度洗浄し白血球成分は除いた後
A測定まで−80℃で保存した。赤血球のリン脂質中における脂肪酸分画(EPA及びその他の脂肪酸)はガスクロマトグラフィーで測定した。一般的事項の面接調査を行った後に、魚類の摂取頻度を1週間に1度、2ヶ月に1回以上、2ヶ月に1回未満の3項目で質問した。また、24問のハミルトン抑うつ尺度(HDRS)
、自殺の衝動性や方法に関する質問(SIS)も行った。
【結果】2群の背景ではケースは家庭収入が若干低く、コントロールは日雇い労働者や学生が多かった。また、魚の摂取頻度に有意差はなかった。ケースのエイコサペンタエン酸(EPA)及び、ドコサヘキサエン酸(DHA)、n3系脂肪酸全体の赤血球膜リン脂質における分画は、コントロールに比べて有意に小さかった(EPA;ケース:0.74%±0.52%、コントロール:1.06%±0.62%、p<
0.001、DHA;ケース:4.4%±1.6%、コントロール:5.3%±1.7%、p=0.003、全n3;ケース:8.5%±2.4%、コントロール:9.9%±2.9%、p=0.002)。n6系脂肪酸や飽和脂肪酸では有意な轟キのあるものはなかった。赤血球中のEPA分画が最も大きかった上位4分の1の最も小さかった下位4分の1に対する自殺企図のオッズ比は0.12(95%信頼区間0.05−0.30、トレンド検定でp<0.001)であった。さらに、年齢、性別、子供が一人、身体の障害、自殺した家族の有無、婚姻曙況、教育年数、就業状況、家庭の収入、居住地、喫煙状況を共変量として補正したオッズ比は0.12(95%信頼区間0.04−0.36、トレンド検定でp=0.001)であった。EPAが多いと有意に自殺企図の危険が小さいことを示していた。なお、n3系脂肪酸とHDRS、SISとの関連はなかった。
【考察】今回、組織内のn3系脂肪酸が自殺企図のリスクファクターであることを示唆する結果を得たが、魚油の介入研究を含んだ今後の更なる研究が必要である。
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