News Letter No.38 - Aug 2004 -
 
  第17回日本サイコオンコロジー学会総会
一般演題(1) 「精神的サポート」を終えて

聖路加国際病院
川名典子



 このセッションは心理測定尺度を用いて患者の精神状態を測定する研究が4題発表された。
 小山敦子氏による「骨髄移植患者の精神的ストレスとメンタルサポート」は、71名の骨髄移植患者にSDS、STAIなど5種類の心理テストに加えて身体能力(PS)とセルフケアの査定も行い、解析を行っている。対象者にうつ状態が認められることや状態不安が高いことなど、予測される結果がだされたのではあるが、セルフケアアチーブメントの査定など、既存の心理テストのみならず、患者の日常生活状態を患者の精神的能力の一端として評価する視点は興味深かった。研究者らは、心理状態の測定だけでなく、交流分析を精神ケアに用いたとのことには、今学会が日本交流分析学会との共催であるという状況を鑑みて、興味深いものであったが、患者に対する交流分析の実際については時間不足もあり詳細がよく理解できなかったことは大変残念であった。今後、この部分だけでも別途ご発表いただくことを期待している。
 塗師恵子氏による「肺がん患者に対する短期グループ療法の試み」は、肺がん患者へのグループ介入効果をPOMSで測定したものである。肺がん患者対象のグループ介入という点に新規性のある研究であった。結果は「怒り−敵意」が有意に改善しており、過去の他の部位の患者対象のグループ介入研究と同様の結果が得られた。乳がん患者のみならず、肺がん患者でも効果が得られたことで、グループ介入ががん患者一般に効果的であることを示唆する研究であった。
 奥山徹氏による「がん患者において、精神症状は日常生活活動に大きな支障をもたらす−日米の比較から−」は、MD Anderson Symptom Inventory19という、症状重症度と日常生活の支障の程度を評価する質問紙の日本語版を作成して日本のがん患者に実施し、米国の患者との比較を行ったものであった。倦怠感や悲しみが両国で共通して日常生活に支障をきたすという結論であったが、日米の対象者の特性が異なっている点が比較研究しては残念だった。症状と日常生活の支障を評価するMDASIは、患者ケアのアウトカムを測定するための新しいツールとして興味深い。今後の研究で試用、活用してほしいとの発表者からのメッセージがあったことをここでもお伝えしておきたい。
 川瀬英理氏による「放射線治療中のがん患者の怒り・敵意」という発表は、POMS、HAM-Sと痛み疲労感のVASを測定し、POMSの「怒り−敵意」得点に焦点を当てて、その影響因子を探索したものであった。「怒り−敵意」という情緒への影響因子として痛み、うつといった症状のみが説明変数として用いられており、医療者との関係性や治療への満足度といった臨床的に予測される因子が投入されていないことが物足りないと思われたが、発表者のらは説明変数の選択のために質的な研究にも着手しているということであった。現在進行中の、怒り−敵意の原因を抽出する質的研究の結果が大変楽しみであり、その上で、さらに今回の研究を発展させていただきたいと楽しみにしているものである。
 今回の演題は4題ともスケールを用いた研究で、それぞれに新しさがあり興味深かった。他方、精神状態の測定→介入、という図式のみならず、なぜがん患者がうつになるのか、心理社会的な発症のメカニズムを解明していくことも、精神的サポートの方法論確立には不可欠であろう。良質な質的研究がもう少しあっていいのではないかという欲が最後に少し残ったセッションだった。