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久留米大学名誉教授
無敵剛介
久保千春教授の下に九州大学医学部百年講堂で開催された第17回日本サイコオンコロジー学会は久保会長の人間味あふれる温厚なお人柄を象徴するが如く、きわめて明るくさわやかな雰囲気の下に行われた。
かねてより心から尊敬申し上げ数々の指導を賜った九州大学大学院医学研究院 麻酔・蘇生学、高橋成輔教授の「心の侵襲学」と題する教育講演の座長という身に余る御指示を承り、大変光栄に存じた次第である。
高橋教授は九州大学医学部を昭和43年に卒業後直ちに同大学麻酔科に入局され古川哲二教授、そして吉武潤一教授の薫陶を受けられ、日本における生体侵襲学のパイオニア的存在となられた方である。第26回日本医学会総会では展示委員長として「社会の育てる医学と医療」というテーマの下に25万人の市民に親しく接せられ、今回の医学会総会の理念を市民一般の人達の心の奥深くまで伝え、日本医学会の為大きく貢献された。
先生はこの度本学会において先端医療の立場から広く総合的チーム医療体系の現場まで各医療従事者の心と心をつなぐ生体危機管理学の重要性について論及された。サイコオンコロジーの学術的分野でも医療現場での告知やインフォームドコンセントの問題は特に患者と医療者との心と心の協調的連携作用によって成立する人間科学的問題として多くの研究が為されてきたが、高橋教授は心的外傷にさらされる患者の心理反応に対する人間科学的対応の現場での推移をショックと代謝研究の始祖ラボリ教授の「侵襲後生体反応のオシレーション」を背景に心理的波動反応相として四つの相に分け、それぞれの相での対応、臨機応変の対応をしっかり見極める方策について36年間10万例の生体侵襲学の実践体験から論及され、きわめて印象的であった。
癌患者へのサイコオンコロジー的対応には大きく二つの立場があると考えられる。つまり一つは人間としての患者へのあくまで自然科学的探究の立場と、他の方は生存機序における患者自身の体験的連続性の中で展開される人格的要素を基盤に、直観的に理解し考察していく立場である。この二つの立場はいずれも癌に悩む患者に対する純粋な客観的観察とそれに基づく分析的、また、全人的な対応を可能にするものと考えられる。したがって脳神経・内分泌・免疫学的生体防御機構を高次化した生体侵襲学の立場から心の侵襲学へと進展させ、心のケアとは何かについてきわめて分析的に分かり易く論説されたこの度のご講演には強く感動させられた。今ここに一つ新しいサイコオンコロジーの分野が開拓されたことを実感しあらためて深い感銘を覚えた。
新しい時代の人間科学的サイコオンコロジーの道を創基的に拓く貴重なご講演であった。
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