News Letter No.38 - Aug 2004 -
 
  学会印象記 
第9回日本緩和医療学会総会に参加して

独立行政法人国立病院機構四国がんセンター精神科
三上一郎


 2004年6月17日、18日の両日、第9回日本緩和医療学会総会が、並木昭義会長(札幌医科大学医学部麻酔学講座・教授)のもと、「緩和医療学の普及と進展を図る」をテーマとして、札幌市で開催されました。本学会はその名前の通りがん患者の全経過を対象としたQOL尊重の医学であるPalliative Medicineの発展を目指す学会です。参加者も、医師、看護師だけでなく、ソーシャルワーカー、臨床心理士、薬剤師、理学療法士など様々な職種からなっていました。
 今回の総会は、特別講演3題、教育講演8題、シンポジウム4題、パネルディスカッション3題、さらにポスターによる一般演題を中心に構成されていました。これらがポスター会場を含めると5か所の会場に分かれて進行しており、興味深いセッションが時間的に重なることも多く、「どちらに参加しようか?」と迷いながら聴講しました。
 第1日目に印象的であったのは、シンポジウム「オピオイド製剤の展望」でした。ここでは、有田英子先生(東京大学)より、「オピオイドの副作用対策とオピオイドローテーション」、下山直人先生(国立がんセンター)より「オキシコンチンの使い方のコツと問題点」、的場先生(北里大学)より「フェンタニルパッチの使い方のコツと問題点」、志真泰夫先生(国立がんセンター)の「痛み以外の症状緩和におけるオピオイドの役割」では、呼吸困難感に対するモルヒネの全身投与および吸入モルヒネの効果についての知見のレビューがされていました。いずれも、この数年の日本国内におけるオピオイド製剤使用の急速な進歩と普及をレビューするものでした。第2日目は、シンポジウム「緩和医療における、薬剤、製剤の適正使用」に出席しました。安達勇先生(静岡県立がんセンター)より「緩和医療における保険適応外薬剤の使用と問題点」と題して、現在の保険適応外薬剤(消化器症状に対する酢酸オクトレオチド、神経因性疼痛に対する鎮痛補助剤、骨性疼痛に対するビスホスホネート、食欲不振に対する酢酸メドロキシプロゲステロン剤など)使用の現状、リスクマネージメント、経済性についての発表があり、保険適用外という微妙な問題について踏み込んだ議論がされていました。また森田達也先生(聖隷三方原病院)の「終末期がん患者に対する輸液治療の是非」では、QOLへの影響が無視できないにもかかわらず十分な根拠となる知見が蓄積されていないことが、非常にスマートなレビューから導かれており、非常に印象的でした。さらに、同日のパネルディスカッション「苦痛緩和のための鎮静におけるcontroversy=根拠に基づいた現時点での推奨と今後の課題」では、がん終末期の鎮静という非常に難しい問題を取り上げ、明智龍男先生(名古屋市立大学)からは、せん妄と抑うつに関連した鎮静の問題が発表されていました。がん患者の精神症状を非常に積極的に治療してこられた上での、鎮静の位置づけに関する検討は非常に説得力のあるものでした。また、厚生科学研究「がん医療における緩和医療および精神腫瘍学のあり方と普及に関する研究」班で作成中の苦痛緩和のための鎮静ガイドラインが、作成過程も含めて紹介されていました。並行して開催されていた教育講演では、田中桂子先生(静岡県立がんセンター)の「呼吸症状のコントロール」、保坂隆先生(東海大学)「精神症状のコントロール」など、各領域の第一線の先生方の講義を集中して受けることができるという、こちらも大変充実したものでした。
 2日間の会期中、一般演題は259題のポスター発表がありました。特に今回の学会で印象的であったのは、緩和ケアチームの活動に関して非常に多くの施設から報告があったことです(4セッション24題)。また、精神症状に関するセッションも6セッション36題と多く、平成14年度より始まった緩和ケアチームの診療加算の開始とこれに伴う緩和ケアチームの精神科医配属の広がりが、大きな追い風になっているように思われました。
 2日間を通して、非常に盛りだくさんなプログラムが組まれており、日常の臨床業務に直結した話題が多いこともあって、参加者にとって非常に刺激的なものだったと思います。四国から参加した私は、気温差のせいか風邪をひいてしまい、朦朧とした頭で聴講することになり、楽しみにしていたサッポロビール園にもゆけませんでしたが、国内の緩和医療の現状や、(特に精神症状以外で)緩和医療に関する知識を整理する、大変良い機会となりました。