News Letter No.38 - Aug 2004 -
 
  学会印象記 
第9回日本緩和医療学会印象記

東京慈恵会医科大学精神医学講座
石野裕理


 「緩和医療学の普及と進展を図る」をテーマとした第9回日本緩和医療学会が2004年6月17日から2日間にわたり札幌医科大学麻酔学講座の並木昭義教授のもと、第1回学会と同じ札幌市にて開催されました。最近の緩和医療に対する関心の高さに加え、さわやかな季節の北海道とあって約2000人もの参加者が集まりました。本学会は患者の個別性・価値観を重視し、身体・心理・社会・実存的苦悩を包括的・全人的に捉え、QOLの向上を目的としています。この目的を達成するための医学的研究は1996年の発会以降本格的に蓄積され、がん医療のひとつの専門分野を確立しつつあります。本学会から、EBMに基づいた「がん疼痛治療ガイドライン」も発刊されています。
 学会では多職種による実践的で活発な討議と情報交流が行われ、緩和医療への期待はとても大きなものと実感しました。多くの苦悩する患者さんを前に日々の臨床場面で悩み無力感を感じることも多い私たちにとって、この学会が開催される意義はきわめて大きいと思われます。
 特別講演は「死の臨床におけるスピリチュアルケアの意味と役割(関西学院大学神学部・窪塚俊之教授)」「緩和医療におけるNBMとEBM−患者中心の医療ための両輪(富山大学健康管理センター・斉藤清二教授)」「日本人の死生観(哲学者・梅原猛先生)」の3題でした。特に著名な哲学者である梅原猛先生はご自身のがんの闘病体験を語られ、ハイデガーから親鸞、縄文人など幅広く死生観を紹介し生命のつながりを強調されある種悟りの境地にまで達せられているという印象さえ受けました。症状の緩和のみに目をむけるのではなく、患者さんのスピリチュアルペインを絶えず念頭に入れて訴えに対応することが重要であることを痛感させられました。
 教育講演は症状コントロール(呼吸症状、精神症状、消化器症状、倦怠感、悪心・嘔吐、臭気)に関してのものであり実践に役立つものばかりでした。各種症状の治療ガイドライン作成が期待されます。また「外国から見た緩和医療」ではわが国独自の文化、社会的背景に立脚した緩和医療の確立の必要性、実践上の標準化がつよく求められているとのことでした。
 シンポジウムは、「オピオイド製剤の展望」「緩和医療における薬剤、製剤の適正な使い方」「緩和ケアチームの現状と展望」「モルヒネの効かない痛みの治療」の4題でした。新しいオピオイド製剤であるフェンタニルとオキシコドンの有効性やオピオイドローテーション、鎮痛補助薬など疼痛緩和の選択肢が増えよりよい医療を提供できることがわかりました。またわが国の緩和ケアチームは施設間格差が大きいもののチーム加算の条件がそろわない施設においても可能な範囲で最大限の活動している様子がわかりました。
 不治の病はどんなに医学が発展しても存在し続けると思われます。緩和医療の発展により病気とともに生き最期までQOLを尊重しその人らしい尊厳ある死を迎える機会が増えることが期待されます。