|
昭和音楽大学
久保田牧子
北里大学東病院の緩和ケア領域での音楽療法臨床の2症例の発表を通して、サイコオンコロジーにおける音楽療法の役割について述べてみたい。
がん患者の看取りのセッションはご家族の希望で通常時間を早めて開始し、音楽療法士と家族の歌声の中で開眼した患者に家族は気付き、終了10分後に亡くなられた。後日家族から、重篤な状態で継続していた音楽療法において、音楽によって患者が穏やかな表情になることで、家族は心的苦痛の軽減を感じたこと、患者との別れに音楽葬を執り行った報告を受けた。症例は8回の音楽療法の中で歌うことによる人生の振り返り作業と家族との新たな音楽の共感を体験された。この経過は状態を見守る家族を自然に、音楽療法の同席参加へと導いた。
がん治療にて入院中に低酸素脳症となった患者の家族が、患者の死を迎えるまでの間に、音楽療法を通じてモーニングワークを行っていった6ヶ月間の経過はテーマの移行であった。テーマの移行:対象者は夫から妻へ。夫の状態回復への諦め、妻本人の夫との別離への覚悟とテーマが移行。音楽の効果:取り扱った曲に誘発されて、夫と築いた歴史をたどる中で一連の記憶が整理され「夫と歩んだ軌跡」として再構成される。曲―思い出という短期的な連鎖が、思い出―歴史へと長期的な再編集につながる。思い出が整理されると同時に、夫の持ち物を処分する=目の前に生きている夫がいないことを認める。再編集した思い出の格納:夫の死を意味ある流れとしてまとめようとする認知態度。妻は最後に病棟スタッフに「本人は疲れたでしょうが、私は十分納得する時間をもらえました」とコメントされる。後日、挨拶のための来院時に、入院初期に患者が参加されたコンサートに出くわされるなど「不思議に間が合う」現象を、夫の導きによるものと捉える。ここに夫の死を意味ある流れとして捉えようとする、死の受容の姿勢が窺われ、「この後がっかりくるのかもしれません」とやり残している「悲嘆」反応を今後の課題と考えていることも表現された。
緩和ケア領域では患者と家族の双方が対象となると考えられる。しかし現状の医療体制の中では家族のケアの重要性を取り扱う具体的な方法が設定されていない。音楽療法も同様である。音楽による効果として疼痛緩和、抑うつ気分の改善、病気からの一時的な離脱など列挙されるにも拘らず、保険点数化されていないことで、十分な適応と医療領域における発展が阻まれている。音楽療法の効果を表す最適な手段が必ずしもEBMでないことも考えられる。人間の機能が複雑に連携しているように、医療体制が病む人とその家族の状態に応じて適切に対応できる統合的な機能を十分果たせる体制へと推進するのはサイコオンコロジーの今後の課題ではないだろうか。音楽療法が担える役割の側面を追っていきたい。
|