| 乳がん患者の心理的苦痛について −不安傾向と感情抑制傾向から− |
北里大学大学院 医療系研究科(医療心理学)
岩満優美
これまで、筆者らは乳がん患者の否定的感情の抑制傾向と気分状態との関係について調べ、否定的感情を抑制する人は表出する人と比較して、初診時から心理的苦痛を強く感じていることを見出した。しかし、不安や抑うつなどの精神症状が悪化し、うつ病や適応障害といった精神障害にまでいたるがん患者の心理的要因は、必ずしもこの抑制傾向だけではない。Weisman
(1984)は、がんに対する心理社会的適応が難しい患者の心理面と精神面の特徴として、“不安の高さ”“自我の弱さ”“ストレスの蓄積度”“思考および対処スタイルの不適切さ”“精神障害罹患の有無”などを挙げている。
そこで本研究では、“感情抑制傾向”に“不安傾向”を新たに加えて、がん診断前後の心理的苦痛について良性腫瘍患者との比較から検討した。対象者は、滋賀医科大学・乳腺外来を受診し、研究参加に書面にて同意した、21名の乳がん患者と72名の良性腫瘍患者(平均年齢±SD=45.5±9.6歳)であった。彼らは、初診時に、不安傾向
(Manifest Anxiety Scale)、日常生活での否定的感情の抑制傾向(Coutauld Emotional Control
Scale)および気分状態(Profile of Mood States:POMS)を、2回目の診察時には気分状態(POMS)のみを測定された。
その結果、新たに以下の点がわかった:1)不安傾向の高い患者は不安傾向の低い患者と比較して、全般的に心理的苦痛を強く感じていた。2)“不安傾向が高く、そのうえ感情を抑制する患者”は、“不安傾向も感情抑制傾向も低い患者”と比較して、がん診断前後の心理的苦痛を強く感じていた。3)不安傾向の高い良性腫瘍患者は不安傾向の低い良性腫瘍患者と比較して、全般的に心理的苦痛が高いが、特に初診時の心理的苦痛が高かった。
以上より、不安傾向の高いがん患者は心理的苦痛を強く感じているが、とりわけ、不安傾向の高いがん患者が感情抑制傾向にあるとき、その心理的苦痛はもっとも強かった。よって、不安傾向と感情抑制傾向はともに、がん患者の心理的苦痛を予測するリスク因子であると考えられる。今後は、1)がん診断前後だけでなく、退院後まで含めたがん患者の心理的苦痛についてさらに調べるとともに、今一度心理的苦痛を予測するリスク因子を再検討し、2)心理的苦痛を抱きやすいと予測される患者に対する心理療法的介入の有用性について検討していきたい。
参考文献)
Iwamitsu Y, Shimoda K, Abe H, et al., Anxiety, emotional suppression,
and psychological distress before and after breast cancer diagnosis.
Psychosomatics, (in press).
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