News Letter No.38 - Aug 2004 -
 
  Current Opinion 
コミュニケーションとスピリチュアルケア

山口大学医学部医療環境学
谷田憲俊


 昨今のクリスチャンは、誕生と結婚、死亡した時の3回しか教会に行きません。日本で「葬式仏教」と揶揄されるのと同じです。そういった状況なので、終末期医療における宗教の大切さが再認識されスピリチュアルケアが叫ばれるようになったのでしょう。スピリチュアルケアは、「精神的ケアや心理・情緒的ケアと部分的に重なるが独立した概念」というのが大方の意見のようです。私は、「人と人とのつながり」、言い換えれば「コミュニケーション」でスピリチュアルケアを語れると考えます。その背景となった本を最近出版しましたので、その紹介も兼ねてまとめてみます。
 キリスト教社会でスピリチュアルケアを話題にするとき、宗教的側面と実存的側面があるとされます。それら両面から仏教に思いが至ります。私ごときが述べる必要はないですが、仏教には宗教的側面と実存的側面がすでに存在します。お釈迦様は「自灯明」として、「自分の心が全ての中心だから、自分と向き合え、自らを高め磨かれた自分を灯明として歩め」と、自己の存在が全ての元と述べています。中国では「尽十方世界是一顆明珠」「尽十方界真実人体」で「この宇宙全部が自分の体である」と、自己の存在の唯一さが述べられます。弘法大師は「秘密荘厳心」と宇宙と自分が一体になった感覚を、道元禅師は「十方世界是全身」と悟りは全世界が自分と一致する感覚と述べています。「仏教は哲学である」と言われる所以です。
 それがコミュニケーションとどう関係するのでしょうか。“青い鳥”は自分の家にいました。そのことより、フランスの作家、ジャック・サロメは、コミュニケーション(対話)の基本は「自分を愛すること」と訴えます。省みれば、対話法を誰も教えてくれません。親、先生、先輩、上司がすることをまねているだけです。それがうまくいかないから、皆がコミュニケーションに悩むのです。サロメは、そのような家庭や職場、学校などにある支配服従関係のコミュニケーションをサップ式と呼んでいます。それに対し、自分と相手を尊重する対話法をエスペール法としました(仏語でエスペレは希望)。対話を重ねると、人は自分を理解し愛するようになり、そして宇宙につながる自己の存在の大切さを実感できるとサロメは指摘します。このエスペール法による姿は、「秘密荘厳心」や「十方世界是全身」に通じます。同じ意味で、カール・ロジャースを思い浮かべる方も多いと思います。
 「人の心には各自の宇宙が存在し、それが全宇宙と一体と気づいた時、その人は大きく生まれ変わる」という仏教の教えは、望ましいコミュニケーションの姿、エスペール法そのものです。芸術が宗教と深く結びつき、またスピリチュアルケアに重要なのは、それらが人々のスピリチュアリティに響くからだと思います。スピリチュアルケアには、よいコミュニケーションが基本、やはり“青い鳥”は自分の中にいると思います。
『幸せをよぶコミュニケーション サップ式からエスペール法へ』ジャック・サロメ著、谷田憲俊監訳、市川聖子翻訳.行路社、2004年。