News Letter No.38 - Aug 2004 -
 
  Current Opinion 

ICU(集中治療室)とターミナルケア

神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部 看護学科
木下里美


 ICUでのターミナルケアを考える際、まず、ICUにターミナルケアという概念が存在するのか、という疑問が生じる。ICUで死の転機を迎える人のケアを、通常ターミナルケアとは言わないし、ICUはターミナルケアを行う場所ではないという認識があるからであろう。またICUでターミナルケアという言葉を使用すること自体に抵抗を感じる人も多い。
 海外の文献では、ICUの場合、end-of-life care が一般的のようである。しかし、日本語での適切な訳はまだないように思う。よって、ここでは、ターミナルケアの意味を「死を迎える患者や家族のケア」と広義にとらえ使用したいと思う。
 ICUでターミナルケアや死の研究をしたいというと、嫌悪感をもつ人と非常に関心を示す人に分かれる。ICUの目的からすれば「ICUは集中的に治療を行うことで回復しうる重症な患者が入室する場所」であり、ICUにとって死は敗北を意味するとも言われる。
 しかし、ICUに入室している患者は、重症であるから、医療者は、絶えず「死」は意識して治療やケアに当たっている。その「死」への意識が、生命を維持することに専念すること(死なないように)なのか、終末期を意識すること(死に向けての準備)なのかの違いである。しかしそれは全く違うようでかなりオーバーラップしているようにも思える。結果的に、死を迎えることになれば、もっと早くから、患者と家族の関わりを持たせられたのではないかと後悔することも多い。もっと早く分かっていたらとは言っても、神様ではないので、確実な死の予測は無理であり、死を想定してケアをしていても、いつなのかはわからない。ただ、もっと早く治療停止できたのではないかと思う人がいることは事実であり、また、治療をしている最中にも、無理な延命治療ではないかと患者の死を予測する人がいることも事実であろう。
 以前、ICU看護師対象に調査を行ったとき、「私なら、ICUのようなところでは死を迎えたくない」や「ICUでは患者本人の希望に添った死がむかえられない」といった自由記載が多く見られた。臨床時代の大半をICUで過ごしてきた自分も、ICUにおいて患者、家族、医療者にとっての、「Good death」とは何なのだろうと思う。その答えが難しい理由の中に「患者は死を迎えると思ってICUには入ってこない。助かりたいと思ってICUに入ってくる」と、某看護師は記述していた。
 ここで死を迎えても良いと思える場をICUに求めるのは無理なのであろうか。ICUでの死の研究をしていると、「ICUなのだからターミナルケアが難しくて当然でしょう。あなたはICUの現場を知らないからこんな研究をするのでしょう」と指摘されることもある。
 ICUでのターミナルケアは、学会での講演やシンポジウムでもたびたび取り上げられ、柳田邦男氏は「困難な問題が多いが、そういう場でターミナルケアの可能性を探ることができれば、様々な分野におけるターミナルケアの実現に突破口を開くことになる」(第25回日本集中治療医学会総会,1998)と述べている。その突破口の一助になることを願いつつ、自分は研究を続けている。