| 予後に関するコミュニケーションに対する非治癒的転移性がん患者の意向 |
国立がんセンター研究所支所精神腫瘍学研究部
藤森麻衣子
Cancer Patient Preferences for Communication of Progression in the
Metastatic Setting.
Hargerty RG, Butow PN, Ellis PA, Lobb EA, Pendlebury LS, Leighl
N, Goldstein D Lo SK, and Tattersall MHN.
J Clin Oncol 22: 1721-1730, 2004.
がん患者の心理的ストレスが大きいことから、悪い知らせ、予後、治療について話し合う際の患者−医師間のコミュニケーションの重要性が注目されている。患者−医師間のコミュニケーションは文化や時代に合わせて変化しており、先進国においては患者がもっと詳細な情報を知りたい、治療の意思決定にもっとかかわりたいといった、自らの意向を表出する機会が増している。これまで、悪い知らせについて話し合う際のコミュニケーションに焦点を当てた研究は数多く報告されているが、このたび、転移性がんの知らせを受けた患者を対象とした予後の話し合いに関するコミュニケーションの意向を評価した研究が報告されたので紹介する。
Hargertyらは、オーストラリアにおいて転移性がん患者の予後の話し合いに関するコミュニケーションの意向とその関連因子を明らかにすることを目的とし、6週間から6ヶ月間以内に非治癒的転移性乳がん、前立腺がん、大腸がんであることを伝えられた患者を対象として、自己記入式の質問紙調査を行い、予後(余命やQOL)の話し合いの内容や形式、時期、主導者は誰かということに対する、また余命についての統計的情報の提示法に対する意向を評価した。
その結果、予後(余命やQOL)の話し合いの内容は、ほぼ全患者(99%)が治療に関する情報を得ることを望んでいた。多くの患者は治療による副作用(94%)や症状(96%)について知りたいと回答した。滅多に生じることのない症状や副作用について知りたいと希望している患者は38%を占め、その主な理由は治療選択時の意思決定と将来に対する準備のためであった。生存期間の情報に関しては、ポジティブではない情報(例えば、治療しない場合の最短生存期間)についても知りたいと回答した患者(70%)よりも、よりポジティブな情報(例えば、治療しない場合の最長生存期間)を望む患者が多かった(80%)。生存期間の情報を知りたくない主な理由は、このような情報は正確に予測することができないためである。
予後(余命やQOL)の話し合いの形式は、治療目標や選択肢、症状や副作用については、転移性がんの最初の告知時に知りたいという回答が8割以上と最も多く、約6割の患者は最初の告知時にどれくらい生きられるか知りたいと回答した。余命の話し合いの時期に関しては、最初の告知時に知りたいという回答が60%、聞いたら教えてほしいという回答が40%を占めた。3分の1の患者は最初の告知時に死や緩和ケアについて話し合うことを望んでおり、別の3分の1はもう少し時間が経過してから話し合うことを望んでいた。45%の患者が医師に対してこのような話題を取り上げてほしいと希望していた。
本結果から被調査者の大部分は予後について詳細な情報を望んでいること、それは自分と家族が将来の準備のために必要であると考えていることが明らかとなった。予後に関する情報提供は患者の望むところであるが、見積もりが難しいことが多く、患者のニーズに適切に応えるためには、見積もられた予後の情報と医学の不確かさの両方を伝える方法を考えていかなければならない。しかしながら、医学の不確かさを患者に伝えることによる患者のアウトカムへの影響についてのデータの蓄積は不足しているため、今後の検討課題となる。余命の話し合いの時期は、「最初の告知時」と「聞いたら教えてほしい」という回答に患者の意向が分かれた。このようなコミュニケーションに関しては個々の患者に合わせたコミュニケーションが必要である。余命についての統計的情報の提示方法に関しては、言葉やパーセンテージによる提示を好む患者が多く、円グラフなどの図示は理解することが難しいという結果であった。図示ではなく言葉のみの説明が患者の理解を促進するのか、図示し時間をかけて説明することによって患者の理解が促進されるのかに関しては今後の検討課題である。抑うつ・不安の高い人は余命に関する情報をより強く望む傾向が示唆されたが、その差は小さいものだった。大腸がん患者、前立腺がん患者は乳がん患者と比して専門家に話を聞きたいという意見が多かったが、これは大腸がん患者、前立腺がん患者は乳がん患者ほど団体力や政治力がないことが影響しているかもしれない。
本研究は非治癒的転移性がんの患者との予後に関するコミュニケーションという複雑なテーマを扱った興味深い研究である。今後は、患者の予後に関する質問が増加し、不安が低減することが示唆されている質問促進リストを用いた介入に想定されるようなコミュニケーションを促進するための介入研究が望まれる。
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