| 教育講演U「臨床倫理の考え方―日常臨床で出会う倫理的な問題の対応法」を終えて |
東海大学医学部
保坂 隆
がん診療の場では倫理的な問題について考えさせられることが多い。病名や予後についての告知からすでに、倫理的な側面についても考えさせられるからである。しかし、われわれ臨床に携わる普通の者にとって、「倫理」という言葉を聞くと、難解な感じがして、やや抵抗感が生ずるのも正直な気持ちである。実際プログラム上でこのタイトルを見たときに、一部の会員は同様の気持ちを抱いたに違いない。しかし、市民公開講座を除けば、本総会の最後のプログラムとなったこの教育講演には、堅苦しさはまったくなかった。医学生や研修医への講義や、医療関係者への講演の機会の多い講師に因るところが大きい。
さて本教育講演の講師である白浜雅司氏は佐賀県三瀬村国民健康保険診療所の所長である。この三瀬村は、白浜氏の特集が掲載されている「ばんぶう2004年4月号」によれば、佐賀県最北端に位置する人口約1700人の小さな山村だという。謂わば、僻地のプライマリケアの第一線で活躍されている白浜氏は、九州大学卒業後、国立大学では初めてプライマリケア医の養成を目的に新設された佐賀医科大学(現佐賀大学医学部)総合診療部に籍を置いた。しかしその後、留学する直前にうつ状態になり療養を余儀なくされた時に、医療倫理学の本を時間をかけて読んだという。(前述書より)白浜氏にとってこれが今日の臨床倫理の背景になっている。
臨床倫理とは「日常生活において、医療を受ける患者、患者関係者、医療者の立場や考え方の違いから生じるさまざまな問題に気付き、分析、それぞれの価値観を尊重しながら、関係する者が納得できる最善の解決策を模索していくこと」(前述書より)である。そのため、氏は教育講演のなかでも、ある複雑な事例を提示して、各自が考える問題点を医学的適応、患者の意向、QOL、周囲の状況、の4つの枠に当てはめて検討するというシミュレーションをさせてくれた。これは「Jonsenらの臨床倫理の4分割法」と呼ばれている手法である。おそらく本総会のような教育講演ではなく、ワークショップやセミナー形式なら、いくつものケースを通して、参加者とのディスカッションを中心にして進めたかったのではないかと思い、残念というより、次の機会を楽しみにすることとした。この教育講演を聴けば、臨床倫理とはとても日常的なことであり、ある症例に関与するすべての医療者が独自に考えた問題を、この4つの枠に当てはめながらディスカッションを進めていき、最も倫理的な考えを取り入れた解決策に行き当たるような気がしてきた。ぜひとも、日常診療の場に取り入れていただきたいと思った。
さて白浜氏は佐賀大学医学部臨床教授を兼任しているが、この診療所で、佐賀大学の医学生に医療現場を通して臨床倫理の考え方を教育している。恵まれた医学生たちであると思うが、さらに2004年度から始まった卒後研修のプログラムの一環にも組み込まれることになっていると言う。全国的にも理想的な地域医療・保健モデルになっていくことだろうという感想と、羨ましい想いを付記しておく。
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